ゼニス エル・プリメロ プロトタイプに敬意を表したクロノマスター オリジナル トリプルカレンダー

55年前の希少なエル・プリメロ プロトタイプに敬意を表した、まったく新しいコンプリートカレンダーキャリバー。

これこそ、私が支持できるリリースだ。これは新しいコンプリートカレンダーキャリバーを搭載したゼニス クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーである。その外観から、すでに私はこの時計に心を奪われている。バランスの取れたデザイン、38mmのサイズ、そしてトリプルカレンダー ムーンフェイズ クロノグラフ。たぶん3年前であれば、新しいリリースに関して、この3つのことを言及するとは思ってもみなかっただろう。

しかし、それは物語の始まりに過ぎない。クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーは実のところ、1970年に発表された希少なエル・プリメロへのオマージュで、そのコンセプトの証明としてわずか25本しか製造されなかった。ゼニスは、その遺産を現代のラインナップに組み込むという素晴らしい仕事をし、これはそのなかでも特に優れた作品のひとつといえる。

カラーオプションは3色。ホワイト、スレートグレー(オリジナルのプロトタイプへのオマージュ)、そしてブティック限定のグリーンだ。

ゼニスによれば、このケースは単にヴィンテージからインスパイアされているというだけではなく、1969年に発表されたオリジナルのA386の設計図とプロポーションを忠実に再現したものだという。クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーのステンレススティール製ケースのサイズは38mm(ラグからラグまでは46mm)、厚さは13mmだ。文字盤カラーは、ホワイトにブラックのインダイヤル、スレートグレーにホワイトのインダイヤル、そしてブティック限定のグリーンエディションの3種類がラインナップされている。

さて、この時計について語る前に、この時計のインスピレーションの源となった1本について触れたいと思う。というのも、この時計は私をバネ棒のように締まりなくさせる類のものだからだ。1969年にオリジナルのエル・プリメロ A386は、トリプルカレンダー、ムーンフェイズ、クロノグラフを搭載するように設計された。ゼニスはこのアイデアをテストするため、25本のプロトタイプを製作したが、そのあいだにコアとなるクロノグラフの人気が急上昇。初の自動巻きクロノグラフのひとつとして人気が高まり市場に投入されると、カレンダー付きエル・プリメロの計画は頓挫したのだ。やがて70年代に、より宇宙時代的なものとして再検討されるまで放置されるに至ったのである。

これらエル・プリメロのプロトタイプはこれまでに数本しか公開されておらず、1本は2012年に約4万ドル(当時の相場で約300万円)で販売され、もう1本は2015年に約7万5000ドル(当時の相場で約940万円)で販売された。ゼニスはのちに、このプロトタイプを2012年に入手したことを明らかにした。それから12年後、新バージョンで再登場させたゼニスに対して、私はこう言わざるを得ない。よくやってくれた!

新しいクロノマスター オリジナル トリプルカレンダーは、1970年に製作された25本のエル・プリメロ プロトタイプをベースにしている。この計画は頓挫し、商業生産には至らなかった。のちにゼニスは、右のモデルを2012年に入手したことを明らかにしている。Images: Courtesy of Phillips and Christie’s

新しいスレートグレーモデルはオリジナルのプロトタイプをそのまま甦らせたもので、ほかのふたつはモダンなテイストを提供している。しかし、これらは忠実な復刻版ではない。クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーはディナーの際にジャケットを羽織るようなデザインで、針とインデックスにはローズゴールドメッキが施され、よりドレスアップした印象を加えている。

ゼニスの新しいエル・プリメロ Cal.3610は、既存のエル・プリメロ クロノグラフキャリバーにカレンダーモジュールを追加したものだ。3万6000振動/時(5Hz)で駆動する同じベースムーブメントを用い、クロノグラフ針が10秒ごとに文字盤全体を回転する。そう、遊んでいて決して飽きることはなかった。

オリジナルのプロトタイプからインスピレーションを得たスレートグレー文字盤。

そしてモダンなグリーンの文字盤。

ホワイト文字盤とグレー文字盤は一般に販売され、グリーン文字盤はゼニスの実店舗およびオンラインブティックでのみ購入できるブティック限定エディションだ。いずれもカーフスキン製レザーストラップ、またはSS製ブレスレットを用意。希望小売価格はブレスレットモデルが183万7000円、ストラップモデルが176万円(ともに税込)だ。

ここ数年、私はゼニスがリリースする時計に感銘を受けてきたが、この時計もそのリストに加えてもいい。私が10年ほど前に時計に注目し始めたとき、正直に言うとゼニスにはあまり注目していなかった。それもすっかり変わってしまった。昨年のブラック文字盤の“クールな”エル・プリメロから、チタン製のデファイ リバイバル シャドウ(Three On Three記事でチューダーとグランドセイコーに真っ向勝負を挑んだ時計だ)まで、ゼニスは多くのブランドが目指すヘリテージと現代的ウォッチメイキングのあいだのスイートスポットを見つけることに成功している。これらの時計はすべてゼニスのヴィンテージウォッチとの明確なつながりがあるが、ヘリテージを誇張することはない。

これらの時計は完璧ではない。私はまだゼニスからよりよいブレスレットの登場を望んでいるが、それについては前回のエル・プリメロのレビューで取り上げたので、済んだ問題について論議するつもりはない。もうひとつ小さな要望を挙げるなら、オリジナルのプロトタイプには10時と2時位置にスターインデックスがあったことに気付いているだろうか? それを新しいクロノマスター オリジナル トリプルカレンダーにも組み込んで欲しかった。

ところで、ゼニスは以前にもこのようなことを行なっている。2014年に、ゼニスはエル・プリメロ トリプルカレンダー リミテッドエディション(エル・プリメロ 410)を発表した。しかしそれは42mmで、魂が欠けていたようだった。我々は皆この10年で長い道のりを歩んできたが、ゼニスの製品にはそれが如実に表れている。

スタンダードなエル・プリメロ クロノグラフは価格(ブレスレットで約150万円)面で厳しい競争に直面しているが、トリプルカレンダーとムーンフェイズを搭載してしまえば、直接の競争相手を考えるのは難しい。最も直接的なライバルは、ブライトリングのプレミエ B25 ダトラ42で、こちらは176万円(税込)だが、42mm×15.3mmというパッケージをの素晴らしい時計である。ミッドセンチュリーの美学がイームズチェアと共通するとしても、このふたつがまったく同じ手首を求めて競っているとは言い難い。

今月初め、LVMHは2017年からゼニスのCEOを務めてきたジュリアン・トルナーレ氏が退任し、タグ・ホイヤーの同職に就くと発表した。このような製品は、彼がブランドを前進させながら、いかに伝統を現代のカタログに取り入れたかを物語っている。私は彼がさらに重要な歴史を持つブランドであるタグ・ホイヤーでも同じことをしてくれることを願っている。

一方のゼニスは、この調子のままで。

基本情報
ブランド: ゼニス(Zenith)
モデル名: クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー(Chronomaster Original Triple Calendar)
型番: 03.3400.3610

直径: 38mm(ラグからラグまでは46mm)
厚さ: 13mm
ケース素材: SS
文字盤: ホワイトにブラックのインダイヤル、スレートグレーにホワイトのインダイヤル、グリーンにエディションホワイトのインダイヤル
インデックス: ローズゴールド(メッキ)の針とインデックス
夜光: スーパールミノバ SLNC1
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: SS製ブレスレット、またはカーフスキンストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: ゼニス エル・プリメロ 3610
機能: トリプルカレンダー(曜日、日付、月表示)、ムーンフェイズ表示、10分の1秒計測クロノグラフ(10秒ごとに文字盤を1周)
直径: 30mm
パワーリザーブ: 60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 35
振動数: 3万6000振動/時(5Hz)
追加情報: コラムホイール式エル・プリメロ クロノグラフ

オリエントスターのダイヤルの進化が、新たな次元に入った。

オリエントスターから新たなフラッグシップとなるM34 F8 デイトが登場。

オリエントスターのなかでも、コンテンポラリーなデザインやスタイルを持ったラインナップを展開するM34コレクションに、新作となるM34 F8 デイトが加わった。M34は、ブランドのなかでも⾃社の先進テクノロジーを駆使して表現するコレクションだが、そのなかでも新たなフラッグシップとして開発されたのが本作だ。

センターセコンド、3時位置の⽇付表示、そして12時位置にパワーリザーブインジケーターをレイアウトしたオリエントスターではオーソドックスなスタイルだが、M34 F8 デイト最大の特徴はダイナミックかつ繊細なそのダイヤル表現にある。ダイヤルにペルセウス座流星群をイメージしたという独特の放射パターンを持つ高精細な装飾が施されているのだ。

この高精細なダイヤルの装飾は、職人による⼿彫りの金型をもとに真鍮板をプレス成形することで作られる。長野県塩尻に拠点を置くセイコーエプソン塩尻事業所内の「信州 時の匠工房(※)」が製作を担うが、世界でも稀なマニュファクチュールであり、実はオリエントスターのハイエンドモデルの一部にもここで製造されたダイヤルが採用されている。

※編注:「匠工房」「マイクロアーティスト工房」「文字盤工房」「ケース・宝飾工房」で構成される4つの工房の総称。ムーブメントの開発・設計・製造をはじめ、ケース、ダイヤル、針、インデックスなどパーツ製造から組立・調整まで一貫して行っている。

白々明けを表現したホワイトダイヤル

満天の星が煌めく夜空をイメージしたブルーダイヤル

ダイヤルバリエーションはふたつ。どちらもペルセウス座流星群が降り注ぐ情景をデザインテーマとしているが、満天の星が煌めく夜空に降り注ぐ様をイメージしたのがブルーダイヤル、そして白々明け(夜が明けようとして、空が次第に白くなりはじめる様子)の空に降り注ぐ様を表現したのがホワイトダイヤルだ。

そして今回ブルーダイヤルに用いられたのが、エプソンが開発し特許を取得した光学多層膜技術である。この技術は、ダイヤル上にナノレベルの透明な膜を重ねて光の反射と透過をコントロールする光学多層膜を形成し、これまでの塗装技術では表現できなかった下地に施した繊細な装飾を生かした奥行き感のあるダイヤル表現が可能になった。これに加えてエプソンが開発した両球面サファイアクリスタル風防へのSAR(両面無反射)コーティングを施すことで、それぞれのダイヤルが持つ繊細な色や装飾を隅々までクリアに視認できるようになっている。

レイヤーを1段下げて設けられたパワーリザーブインジケーター部には、サーキュラー仕上げが施されている。

ケースとブレスレットにはヘアラインとポリッシュ仕上げを交互に施し、エッジの立ったシャープで力強い印象を与える。

ダイヤルのみならず、ムーブメントも新たなフラッグシップにふさわしい新型だ。M34 F8 デイトに搭載された自動巻きの自社Cal.F8N64は、ブランド70周年を記念して2021年に発表されたスケルトン以来、ブランドの技術的シグネチャーとなっているシリコン製ガンギ車を搭載し、日差+15秒から−5秒の安定した精度と60時間以上のパワーリザーブを備えている。ここまでは既存のF8系キャリバーと同じだが、新型のCal.F8N64はハイトルク化されており、重たい分針でもしっかり回すことができるようになった結果、立体的な見栄えのある針が採用された。

サファイアクリスタルのシースルーバックから見えるムーブメント。ペルラージュが入った受け、コート・ド・ジュネーブのような独自の波目模様が施された回転ローターには面取り加工も施されている。

ホワイトダイヤルのRef.RK-BX0001S。

ブルーダイヤルのRef.RK-BX0003L。

前述のとおり、ホワイトダイヤル(Ref.RK-BX0001S)とブルーダイヤル(Ref.RK-BX0003L)のふたつのバリエーションを展開するが、それぞれ価格や発売時期が異なる。ホワイトダイヤル(Ref.RK-BX0001S)は34万1000円、ブルーダイヤル(Ref.RK-BX0003L)は36万3000円(ともに税込)で、前者は3月23日(土)、後者は少し時間が空いて6月10日(月)発売開始予定だ。なお、先行して発売されるホワイトダイヤル(Ref.RK-BX0001S)は国内限定200本のリミテッドエディションとなっている。

ファースト・インプレッション
本作の見どころは、やはりダイヤルだ。本作のものは前述のとおり「信州 時の匠工房」製だが、これがオリエントスター初の同工房製ダイヤルというわけではない。M45 F7 メカニカルムーンフェイズのダイヤルも実は同様で、昨年リリースされたブルーグラデーションダイヤル、そして2024年の新作として発表されたグレーグラデーションダイヤルも「信州 時の匠工房」製である。これは本作のわかりやすいセールスポイントのひとつと言えよう。

だが、最大の見どころは光学多層膜技術のほうであろう。本作で初めて取り入れられたこのダイヤルはまさに技術の粋を集めて完成する非常に凝ったものだ。

まずは職人が⼿彫りでペルセウス座流星群をイメージした独特の放射パターンの金型が作られ、これをもとに真鍮板をプレスすることでダイヤルのベースが出来上がる。このプレス成形の際に真鍮には100t以上の圧力がかけられるとのことだが、ベース素材を歪ませることなく金型のパターンをきれいにプレス成形するという技術も実はエプソンの特許技術なのだという。

こうして独特の放射パターンが成形された文字盤素材に対し、ブルーダイヤルには特許取得の光学多層膜技術が用いられた。これは光の干渉現象である干渉色を利用した色表現技術で、シャボン玉が虹色に見える様子を想像してもらえるとわかりやすい。シャボン玉の虹色は塗装や染色などの色をつける成分(色素)によってついているわけではなく、微妙に厚みの異なる透明な膜が特定の波長(色)を反射することで人間の目が色として認識している。エプソンの光学多層膜技術ではこの無色透明な複数の膜厚をコントロールし、本作の場合は青い波長だけを反射させることでブルーの色味を表現しているというわけである。

この技術を利用することでブルー以外のさまざまな理想の色を再現することができるほか、見る角度で文字盤の色調が変化するニュアンス表現も容易にでき、従来の塗装では安定しづらい、難しい色表現も可能になる。そして光学多層膜技術にはもうひとつの大きなメリットがある。それは膜厚が非常に薄いため、濃い文字盤色であっても下地に施した模様や装飾がつぶれにくいという点だ。その結果、本作のように手彫りによる金型を使用するような繊細な仕上げの再現が可能になったのだ。ちなみに限定モデルのホワイトダイヤルのほうが、実は従来の塗装により色付けをしている。

オリエントスターは近年、宇宙や星などをテーマにさまざまな技術を駆使することで、自然の移ろい、時の移ろいといった絶妙なニュアンスをダイヤルで表現してきた。本作で用いられた光学多層膜技術は、同ブランドのダイヤル表現の幅を大きく広げることは間違いなく、今後どのようなダイヤル表現をしていくのかが非常に楽しみである。

そうそう、本当はここで文章を締めくくりたいのだが、どうしても気になる点があったので付け加えておきたい。さらっと紹介したが、本作はムーブメントのトルクがアップしたため、従来よりも立体的で長い見栄えのする分針を載せることができるようになった。特に本作の場合は立体的な植字インデックスとの組み合わせで視認性も高まり、既存のラインナップと比べても一層高級時計にふさわしい顔つきになったと思う。これは間違いなく非常に魅力的なアップデートだ。ただし、画像を見る限り秒針が文字盤外周のプリントインデックスに届いていないのだ。これは好みによるところが大きいし、届いていないからよくないと一概に言えるものではないが、せっかくなら秒針も外周のインデックスに届く長さとする、あるいはインデックスのデザインを針に合わせることでより魅力的なバランスになるのではないかと思っている。

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基本情報
ブランド: オリエントスター(Orient Star)
モデル名: コンテンポラリーコレクション M34 F8 デイト(Contemporary Collection M34 F8 Date)
型番: RK-BX0001S(ホワイトダイヤル)、RK-BX0003L(ブルーダイヤル)

直径: 40mm(ラグ・トゥ・ラグ: 47.3mm)
厚さ: 12.9mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ホワイトダイヤル(RK-BX0001S)、ブルーダイヤル(RK-BX0003L)
インデックス: アプライド、12時位置のみローマン
夜光: なし
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット: SS製ブレスレット、プッシュ3つ折式(中留)バックル、本ワニ革レザーストラップ付属(ホワイトダイヤルにはグレー、ブルーダイヤルにはブラック)

ムーブメント情報
キャリバー: F8N64
機能: 時・分針、センターセコンド、12時位置にパワーリザーブインジケーター
パワーリザーブ: 60時間以上
巻き上げ方式: 自動巻き(手巻き付き)
振動数: 2万1600振動/時
石数: 22
追加情報: 日差+15秒~−5秒

価格 & 発売時期
価格: ホワイトダイヤルは34万1000円、ブルーダイヤルは36万3000円(ともに税込)
発売時期: ホワイトダイヤルは3月23日(土)、ブルーダイヤルは6月10日(月)
限定: ホワイトダイヤルのみ国内限定200本

ビギナーのためのGMTベゼル使い方ガイド。

トラベルウォッチマニアのひとりとして、2都市(またはそれ以上)の時刻を表示する時計の基本概念のなかに存在する、無数の組み合わせにこだわらずにはいられない。またトラベルウォッチの機能をフルに活用する方法を知らない人と頻繁にすれ違う日常にも驚いている。予想どおり、これはトラベルウォッチの最も一般的な形式であるGMTでよく起こることだ。

rolex gmt-master
 ロレックス GMTマスターとGMTマスターIIで広く普及したスタンダードなGMTにはいくつかの種類があるが、基本的な機能は、24時間針と24時間表示の回転ベゼルの両方が装備されていること。使用されるムーブメントは、フライヤー(ローカルジャンピングアワー)またはコーラー(独立した24時間針)だが、第2タイムゾーンを追跡する機能は第2タイムゾーン用の24時間針に起因し、さらに多くのことを行うには24時間ベゼルを回転させることでその機能を体感できる。

 次のガイドは還元的であると同時に、知識をひけらかしたようなものに感じられるだろうか? 僕のことを信じたほうがいい。次にGMTの第2タイムゾーンを変更しなければならないとき、これを読んでおけば、リューズに触れたり針を動かしたりすることなく時刻を知ることができるため、僕に感謝することになるかもしれないのだから。

rolex explorer II
ロレックス エクスプローラーIIは、固定ベゼルのデュアルタイムウォッチという一例である。

 GMTを使っている人を見ると、ほとんどの場合は伝統的な“デュアルタイム”ウォッチのように設定されている。メインの針には現地時間が表示され、24時間針はベゼルのデフォルト位置(下図で示しているが、ゼロアワーとは理論上、文字盤の12時位置だ)を読むことで第2タイムゾーンの時刻を表示している。これはこれでいいし、ロレックス エクスプローラーIIのような固定ベゼルの“GMT”(実際にはデュアルタイムウォッチ)に備わっている機能でもあるが、24時間GMTの能力をすべて活用できるわけではない。最大限活用するには回転ベゼルを使う必要があるのだ。

the hodinkee mido LE watch showing two time zones
写真のミドー オーシャンスター GMT LEは、回転式24時間ベゼルを使用しない、標準的なデュアルタイムレイアウトの状態だ。

タイムゾーンの変更にはUTC/GMTオフセットを使用する
 GMT、特にロレックス GMTマスターIIのようなフライヤーGMTや、HODINKEEが最近コラボレートして製造した2本のGMT(ひとつはロンジン、もうひとつはミドー)を使用する場合、僕は24時間のGMT針をUTC 0にセットし、ベゼルを使用して表示しているタイムゾーンのUTCオフセット(編註;特定の時刻ゾーンとUTCのあいだの時間と分の差)を使い、特定の第2タイムゾーンに“ジャンプ”することを好む。厳密にはローカルタイム、UTC 0、ベゼルによって設定されているタイムゾーンがあるため、3つのタイムゾーンが1本の時計に集約されることになる。画像で説明しよう。

map of the standard timezones
標準時UTCタイムゾーンの地図(UnaitxuGV、Heitordpなど、パブリックドメインはWikimedia Commons経由)。

 まず“協定世界時(Coordinated Universal Time)”の略語であるUTCについて、ある程度理解しておく必要がある(これは米軍を含む一部軍組織においては、ZULUタイムとしても知られている)。よく旅行をしたり、ほかのタイムゾーンに住む人と多く交流していれば、GMT(グリニッジ標準時)の概念をより現代的にしたUTC 0という中央タイムゾーンがあることをご存じだろう(東に行けばUTC +1、+2など数値が上がり、西に行けばUTC-1、-2など下がっていく)。UTCの開発については、CUTと略されない理由も含めてこちらを参照してほしいが、簡単に言うとUTCは1967年から存在し、原子時計のように精度を高めるべくGMTをアップデートしたものである。

 GMTと同様に、UTC 0は本初子午線と一致し、経度線のように0から外側に向かって拡大する24のフルタイムタイムゾーンが広がっている。つまりロンドンはUTC -0、ニューヨークはUTC -5、ジュネーブはUTC +1、ドバイはUTC +4、東京はUTC +9である。24時間の“GMT”針をUTC -0にセットすれば、GMTウォッチのベゼルをUTCオフセット(特定の空港や都市、または既知のタイムゾーンの場合)の数だけ回転させることができる。

longines GMT showing UTC time
時針でトロントの現地時間(10:00)を示す“ロンジン スピリット Zulu Time LE”。GMT針はUTC 0(15:00)にセットし、ベゼルはジュネーブのUTC +1を考慮して1時間分回転している。

 ホームタイムゾーンがUTC -5(僕はカナダのトロントに住んでいる)で、ジュネーブの時刻を知りたいと仮定してみよう。トロント(ローカル)が10:00の場合、UTC 0は15:00(+5時間)になる。そこで、ベゼルはホームポジションのまま、GMTの24時間針を15:00にセットした。次に、ジュネーブの時刻を表示するために、24時間ベゼルを回転させてUTCオフセットを正午の位置に表示する。上の画像でも説明しているが、もっと簡単に言うと、ジュネーブがUTC +1(16:00)なら、GMTベゼルの12時位置(ゼロアワーのポジション)に“1”と表示することで、24時間針とベゼルを使ってジュネーブの時刻を知ることが可能だ。

longines GMT showing time in Toronto and tokyo
このロンジン スピリット Zulu Time LEでは、時針でトロントの現地時間(10:00)を表示し、GMT針はUTC 0(15:00)に設定し、ベゼルは東京のUTC +9を考慮して回転している。

 現在、24時間針はUTC 0(15:00)に設定されているため、東京の時刻を表示したい場合は、ベゼルを回して12時の位置に“9”を合わせるだけだ。ベゼルには東京の24時間の時刻(0:00)が表示されるようになり、リューズを操作したり針を動かしたりと、時計の時刻を調整する必要がなくなる。繰り返しになるが、すべては24時間針をUTC 0に設定することにかかっており、この具体的なシナリオは上の図で説明している。

Mido GMT showing geneva local time, toronto away time
このミドー オーシャンスター GMT LEでは、時針でジュネーブの現地時間(16:00)を表示し、GMT針はUTC 0(15:00)にセットし、ベゼルはトロントのUTC-5(24-5=19)を考慮して、12時位置に19が来るように回転させている。

 おまけに、この記事で紹介したロンジンやミドーのようなフライヤーGMTを使えば、新しいタイムゾーンに移動しても、24時間針の位置を変えずに現地時間の更新ができる。そのため、僕がジュネーブに旅行する場合は、着陸し、メインの時針を+6時間ジャンプさせてスイスの時刻(16:00)を表示し、ベゼルを回転して正午の位置に“19”を配置する(19はUTC 0のトロントの-5時間のオフセットを24時間から差し引いたもの)。1本の針を動かすだけでローカルタイム(16:00)とホームタイム(10:00)が表示された。簡単に言うと、これはかなり便利な機能だ(上図)。

 ジェットセッターの多くはこの機能を知っていると思うが、このガイドはアクティブに旅行している人や、単にほかのタイムゾーンを追跡する必要がある人など、GMTを最大限に活用したいという人の役にも立つかもしれない。最後に、GMT機能を搭載した新しい時計、特にフライヤー機能のモデルを探しているなら、この記事で紹介したミドーとロンジンの限定モデル(シリアルナンバー入り)は、いずれもHODINKEE Shopで購入可能だ。

フラテッロウォッチの優秀なスタッフらが、今までで一番手頃な価格の最新限定モデルをリリースした。

このコラボレーションのために、このオランダ発のメディアはRZEと協力して、冒険のためにデザインされたツールウォッチ、RZE×フラテッロ レゾリュート プロ コントゥールを製作したのだ。

2020年に設立されたRZEは、チタン製のツールウォッチで知られるブランドで、この度フラテッロと協力して冒険に適した時計をデザインした。RZE×フラテッロ レゾリュート プロ コントゥアは、40mm径×10.5mm厚(ラグからラグまで46mm)のグレード2チタンケースを採用。この実測値には、ARコーティングを施したフラットな風防も含まれている。ラグは少し下へと傾斜しており、ストラップの交換を容易にするための穴が設けられている(素晴らしいディテールだ)。さらにレゾリュート プロ コントゥアのチタンブレスレットには、工具不要のマイクロアジャスト機能も搭載している。

文字盤はカーボン製だが、そこにスティールパウダーを注入することで、地形図のようなクールなパターンを作り出した。このコンセプトは、エングレービングが施された裏蓋ともマッチしている。

内部にはミヨタ90S5ムーブメントを搭載。有名な日本の自動巻きムーブメントであり、約42時間パワーリザーブ、2万8800振動/時、ハック機能を備えている。

RZE×フラテッロ レゾリュート プロ コントゥアの予約注文は、フラテッロの公式サイトにて3月14日(木)の午前10時(アメリカ東部時間)から1週間だけ開始される。なおメーカー希望小売価格は679ユーロ(日本円で約11万円)で、予約注文時には日本円に自動換算される。

愛好家向けのフレンドリーなメディアが提供する、1000ドル(日本円で約14万7000円)以下の冒険心くすぐるツールウォッチを気にいらない人はいるだろうか? この時計について、私たちが気に入っている点を挙げよう。まずサイズ感がちょうどよく、装着しやすいチタン製ケース、穴の開いたラグ、ソリッドバック、コンポジットカーボン文字盤、工具不要のマイクロアジャスト機能…もっと言いたいことはあるが、要点はわかってもらえただろう。これはマニアが求め、愛してやまない意匠のすべてを、新進ブランドとのコラボレーションにより、手頃な価格でミヨタ製パッケージに収めたものなのだ。

カーボンダイヤル全体にSSの斑点を散りばめることで、競合モデルやRZEのほかのカタログとは一線を画し、コントゥアに真の特徴を与えている。

これは限定モデルだが、予約受付は3月14日から1週間の猶予があるため、フラテッロに駆け込んでRZE×フラテッロ レゾリュート プロ コントゥアを手に入れる時間は十分にあるだろう。

基本情報
ブランド: RZE×フラテッロ(RZE×Fratello)
モデル名: レゾリュート プロ コントゥア(Resolute Pro “Contour”)
型番: 1021

直径: 40mm
厚さ: 10.5mm(風防込み)
ラグからラグまで: 46mm
ケース素材: グレード2チタン(ウルトラヘックスコーティング)
文字盤: スティールパウダー入りカーボンファイバーコンポジット
インデックス: アプライド
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: チタンブレスレット、工具不要のマイクロアジャスト機能

rze fratello watches contour limited edition
ムーブメント情報
キャリバー: ミヨタ 90S5
機能: 時・分・センターセコンド
直径: 26mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き(手巻き付き)
振動数: 2万8800振動/時
石数: 24

価格 & 発売時期
価格: 679ユーロ(日本円で約11万円)
発売時期: 3月14日(木)から3月21日(木)まで予約受付。フラテッロによると、予約受付開始から4カ月以内にすべての時計をデリバリーする予定とのこと
限定: 1週間だけの先行予約

ブルガリが魅力的なサーモンとスティールの色合いで、

ブルガリのオクト フィニッシモは、ローマ建築から着想を得たデザインを取り入れた超薄型ケースに現代的な素材に見事に融合させて誕生したコレクションです。2014年の登場以来、3針からトゥールビヨン、パーペチュアルカレンダーまで、さまざまな複雑機構を備えた極薄のムーブメントを展開し、数々の世界記録を打ち立てて、賞を受賞してきました。

当初はサンドブラスト仕上げが施されたケースにトーンオントーンのダイヤルが組み合わさったものでしたが、やがてスティールやゴールド、時にはタンタルといった素材がケースに取り入れられ、ダイヤルにも新たなカラーやデザインバリエーションが与えられるようになり、誕生から約10年で成熟したコレクションへと成長しました。

同コレクションのなかで最もシンプルなモデルが、2017年に発売された3針のオクト フィニッシモ オートマティックです。ケースの厚さはわずか5.15mmで、リリースされた当時の最薄自動巻き時計で、ブルガリが3つめの世界最薄記録を獲得したモデルとして話題を集めました。2020年にはスティール製ケースを備えたオクト フィニッシモ オートマティック Sを発表。同じ直径40mmですが、厚さが6.3mmとなり、100mの防水性能が確保されたことでより日常使いしやすいパッケージになりました。

ここで紹介するオクト フィニッシモ タスカンコッパーは、シンプルに言えばオクト フィニッシモ オートマティック Sのカラーバリエーションモデルです。実は2023年に北米限定50本で発表されたリファレンスと同じものですが、今回のリリースで通常ラインナップに加わることになりました。

オクト フィニッシモ タスカンコッパーの最も重要な要素であるダイヤルカラーは、時計業界ではいわゆるサーモンダイヤルと呼ばれるものですが、ややピンク色が強く、控えめながらも独特な雰囲気を備えています。デザインを手掛けたブルガリ ウォッチ デザイン センター シニア・ディレクターのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏は、同モデルについてこう話します。「このメタリックサーモンの色合いは、一般的に見られるコレクターが好むヴィンテージの美学から来たものではありません。イタリア美術のルーツである16世紀、正確にはマニエリスムと呼ばれる当時の改革的な運動からインスピレーションを得たものです」

マニエリスムは、16世紀中頃から末にかけて見られる後期イタリア・ルネサンスの美術様式を指します。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ボッティチェッリといったイタリアの盛期ルネサンスの巨匠たちが作り上げた完成された洋式に倣いつつも、わざと極端な比率に引き伸ばされた人体やS字曲線を描いたねじれたポーズ、不安定な構図、フラットな遠近法や空間表現が取り入れられた絵画が特徴です。

僕は本作のプレスリリースのなかでマニエリスムからの影響であると読んだときにフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂につながりがあるのではないかと考えました。なぜならマニエリスムを提唱したミケランジェロの弟子ジョルジョ・ヴァザーリが大聖堂内部のフレスコ画を描いていたからです。もちろんオクト フィニッシモの形状がローマのマクセンティウスのバシリカから着想を得たものであることは知っていましたが、フレスコ画が描かれた大聖堂の天井も八角形で、外から見た屋根の赤褐色もこのダイヤルに近いものがあるように感じました。

ファブリツィオ氏に伺ってみるとヴァザーリではなく異なる作品であると伝えられました。「いい推測ですね。でも私の直接的なインスピレーション源となったのはヤコポ・ダ・ポントルモの絵画『十字架降下』です。デザイン学校2年生のときに授業でマニエリスムについて学んだ際に習ったのがこの作品でした」。なるほど、確かに時計愛好家たちがサーモンダイヤルと呼ぶローズゴールド色よりもピンクが強い色合いなのも頷けます。

スイスのウォッチメイキングにおいてサーモンダイヤルは定番のカラーのひとつですが、タスカンコッパーのダイヤルはメタリックトーンでありながら、艶消しの質感があるユニークなもので、光を受けると深みのあるアニメーション効果が見られます。ロジウムメッキの針とインデックスとの組み合わせによって美しいコントラストが生まれ、視認性も良好です。クラシックなドレスウォッチやヴィンテージスタイルの時計に見られるカラーをブルガリらしいやり方でスティールのオクト フィニッシモ オートマティックのケースにマッチさせているのです。

オクト フィニッシモは、何度も身につけたことがありますが、ダイヤルカラーが異なるだけでも大きく印象を変える不思議な感覚があります。多面的かつ立体的なケース構造ながらその薄さによる控えめなデザインが異なるカラーや意匠をより大きな違いのように感じさせるのかもしれません。当初は北米限定としてリリースされたモデルでしたが、着けてみると日本人の肌なじみのよいカラーリングのように思いました。

個人的にブルガリのオクト フィニッシモは先述のとおり成熟したコレクションであり、完成されたものであると捉えています。だからこそ建築家の安藤忠雄 氏や現代美術家の宮島達男氏らとのコラボレーションや、先日発表されたばかりのオクト フィニッシモ スケッチ 限定モデルのような前衛的なデザインとの組み合わせでもまったく破綻しないのだと感じます。タスカンコッパーは、カラーバリエーションといえばそれまでかもしれませんが、ファブリツィオ氏が選択したマニエリスムから汲み取ると完成されたコレクションにより改革的なアプローチを与え続けようとする動きなのだと言えるのではないでしょうか。

ブルガリ オクト フィニッシモ タスカンコッパー Ref.103856。直径40mm×厚さ6.4mm、ステンレススティール製ケース、100m防水。サンレイ加工タスカンカッパーメタルダイヤル、ロジウムプレートの針とアワーマーカー。ムーブメントはCal.BVL138搭載。自動巻き、パワーリザーブ約60時間、2万1600振/時、時・分、スモールセコンド。211万2000円(税込)