ブランパンからフィフティ ファゾムス誕生70周年を記念するモデルが発表された。

第3弾はヴィンテージのオリジナルモデルのなかでも特に希少なMIL-SPECモデルにオマージュを捧げたモデルだ。知る人ぞ知るリファレンスが選ばれたのには理由があった。

名は体を表すという。であるなら、ブランパンのフィフティ ファゾムスほど、自身を明確に語ったモデルはないだろう。1953年に誕生したフィフティ ファゾムスは、水深の測定単位であるファゾム(1ファゾム=1.8288mに相当)になぞらえ、50ファゾム、つまり約90mもの防水性能を有していることを意味しているのだ。

この時計の開発にはふたりの重要人物が登場する。ひとりは当時ブランパンのCEOで自身もダイビング愛好者だったジャン=ジャック・フィスターだ。あるとき南仏でのダイビング中に経過時間を間違えたことによるエア切れを体験し、ダイバーズウォッチの開発に取り組み始めた。

もうひとりはフランス軍のロベール・“ボブ”・マルビエ大尉である。コンバットダイバーと呼ばれる潜水特殊部隊の編成を進めていたフランス海軍は、海中で正確に隠密行動をするために優れた腕時計を必要としていた。しかし当時の市販品は、どれもその用途に適していなかった。

フィフティファゾムス 70 周年記念 Act 3は、水中カメラから着想を得たボックスに収められる。

そこで部隊を率いるマルビエ大尉らは、ブランパンにコンタクトをとった。ジャン=ジャック・フィスターが海を愛し、ダイビングを愛する男でもあったことを聞きつけていたからだ。海中で安心して使用できる時計の必要性を理解したフィスターは、彼らが提案した「黒いダイヤル」「読みやすい表示」「回転ベゼル」「夜光表示」に加えて、「ベゼルの逆回転防止機構」「ダブルOリングのリューズ」「自動巻きムーブメント」「耐磁性能」を加え、ついに1953年に製品化を果たした。

こうして生まれたフィフティファゾムスは、その優れたスペックで評判となり、多くの潜水士や軍人から愛された。そして海中で使用できるダイバーのための時計の必要性に気付いた多くの時計ブランドが、ブランパンの後を追った。フィフティ ファゾムスは、モダンダイバーズの原点と呼ばれているが、それは紛れもない事実なのである。

モダンダイバーズウォッチの原点であるフィフティファゾムスを生み出したブランパンだったが、70年代のクォーツ革命の波を受けて一時期は休眠状態に陥ってしまう。その後、ジャン-クロード・ビバーによって再興され、機械式時計の伝統技術に光を当てたシックスマスターピースの成功で、華々しく時計業界へと復帰を果たした。しかし当時はドレスウォッチやコンプリケーションを強化していたこともあって、フィフティ ファゾムスはほとんど日の目を見ることはなかった。

そんなブランパンがフィフティ ファゾムスに本腰を入れ始めたのは、誕生50周年となる2003年からだ。なぜならその前年にCEOに就任したマーク・A・ハイエックもまた、ダイビングを愛し、水中写真家としても活動する海の男だから。つまりフィフティ ファゾムスは、ジャン=ジャック・フィスターとマーク A. ハイエックという海を愛する男たちによって、その伝統を守ってきたともいえるだろう。

レギュラーモデルとして待望の復活を果たしたフィフティ ファゾムスは、もちろんすぐに高級時計愛好家から万雷の拍手をもって受け入れられた。1953年モデルのスタイルを継承しつつ、防水性能は300mへとスペックアップ。さらにロングパワーリザーブモデルやコンプリケーションなどさまざまなバリエーションを追加。一躍ダイバーズウォッチの主役へと舞い戻った。

2023年はフィフティ ファゾムスの誕生 7 0 周年を迎える記念の年ということで、3モデルがリリースされた。フィフティファゾムス 70周年記念Act 1は2003年の復刻モデルへのトリビュートで、フィフティファゾムス70周年記念 Act 2は、潜水能力の進化に合わせた3時間計を搭載した現代のダイバーに向けたもの。そしてこのフィフティ ファゾムス 70周年記念 Act 3は、フィフティファゾムスの歴史の始まりである軍用ダイバーズウォッチへのオマージュを捧げるモデルとなった。

1953年に誕生したフィフティ ファゾムスは、その優れた機能が評価され、各国の軍隊が制式時計として採用。その後アメリカ海軍では1950年代後半に定めたミルスペック規格に準拠させるため、ダイヤルにモイスチャーインジケーターを加えることをブランパンに要請。これは時計内部に水が浸入すると6時位置のディスクが濡れて赤く変色することで、時計が故障する危険性を着用者に知らせるものだった。フィフティファゾムス70 周年記念 Act3はこのミルスペックモデルがベースとなっている。

原点モデルのディテールが丁寧に継承されており、例えばケース径は初代と同じ41.3mm。その一方でケース素材には、9Kのブロンズゴールドという特別な素材を採用。そもそもブロンズは加工しやすいため古来からさまざまな部品製造に用いられてきた。潜水士のヘルメットもそのひとつだ。

海との関係性の深い素材であるため、近年はダイバーズウォッチに用いられることも増えているが、フィフティファゾムスでは当時からミルスペックモデルのRef.3200からRef.3246という短いシリアルレンジのなかでこの素材を使用していた。しかしAct 3では、そのままブロンズ素材を使用するのではなく、37.5%のゴールドに50%のブロンズを割り金し、さらにシルバーやパラジウム、ガリウムなどを含む9Kブロンズゴールドを用いる。その結果、ブロンズ特有の酸化による緑青が発生せず、肌への負担も少ない。さらにゴールドともブロンズとも異なる色合いに仕上がっている。

1953年にフィフティファゾムスが誕生した時代、ダイバーズウォッチは完全なるプロフェッショナルツールであり、堅牢性と機能性が尊ばれた。しかし現在のダイバーズウォッチは、海を愛する人たちに選ばれるライフスタイルツールでもある。事実ブランパンは、過去70年にわたって、さまざまな団体とパートナーシップを組みながら、海洋保全活動や海洋探査を行っており、それをブランパン オーシャン コミットメントという形で発表することにより啓発活動を続けてきた。つまりフィフティファゾムス 70周年記念 Act3は、ブランパンの海を愛する気持ちを、華やかな形で具現化した時計なのである。

1953年モデルからほとんど変わらないスタイルは、そういった気持ちが変わらない証明でもある。モダンダイバーズウォッチの原点は、外見だけでなく、その熱いハートも含めて、語り継がれる時計となっているのだ。

モーザーが成し遂げてきた最も重要な功績のひとつを支えるプラットフォームでもあるのだ。

H.モーザーの新しいストリームライナーに見覚えはないだろうか? それもそのはずで、洗練されたラインとデザインのヒントは、20年代~30年代の高速列車から得たものであり、モーザーの一体型ブレスレットの特徴として受け継がれている。しかし発売から3年を経た今、ストリームライナーのフォルムがよりスリムになり、39mmという小振りなプラットフォームをベースに絶妙に調整をし、新しい時刻表示のみの時計に生まれ変わった。

H.モーザー ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメル
最も顕著な変更点は、これまでセンターセコンドのモデルがいくつかあった新型ストリームライナーに、新たに印象的なグラン・フーエナメル文字盤を採用したことだ。“アクアブルー”と名付けられたこの色は、泡立つ深いブルーの水面のような色合いをしており、オンブレ効果を得るべく3つの顔料を12回焼成しているという。最近のH.モーザーのいくつかのリリースのように、ダイヤルにサインはない。(ブランドCEOである)エドゥアルド・メイラン(Edouard Meylan)氏はかつて、文字盤の名前ではなく、時計そのものがブランドの品質を示すのに必要な古い懐中時計を見て、このアイデアを思いついたのだと私に語ったことがある。しかし、このブランドの最近のグラン・フーダイヤルとは異なり、このダイヤルは6時位置にオフセットされたスモールセコンドが、サーキュラーパターンを持つラッカー仕上げのインダイヤルに配されている。

ただ、これが最も重要な変更ではないかもしれない。というのも新しいCal.HMC 500を採用したことで、時計の直径が1mm、厚さが0.9mmと、わずかに小さくなったのだ。この新しい100%自社製マイクロロータームーブメントのサイズは30mm径×4.5mm厚と、21世紀に入ってからのブランド最小ムーブメントとなった。重量感のあるプラチナ製ローターと、より小振りでスリムなコンポーネントを実現した同ムーブメントは、約74時間のパワーリザーブを確保している。

H.モーザー ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメルに搭載されたCal.HMC 500
ムーブメントのサイズを小さくしたことで、ケースラインがより細長く、洗練されたものになった。オリジナルのストリームライナー・スモールセコンドが発売当時2万1900ドル(日本円で約330万円)だったのに対し、新作は534万6000円(税込予価)と大幅な値上げになったが、最終的にこのブランドを購入する理由を探していた潜在的なH.モーザーファンにとっては、文字盤と新しいムーブメントにそれだけの価値があるかもしれない。

我々の考え
すべてのカードを切った最後、H.モーザーは小さなストリームライナーの新作を発表すると言ったとき、私はかなりわくわくした。この時計は、市場で大流行し続けているブレスレット一体型のスポーツウォッチに代わる、斬新な選択肢を提供してくれるからだ。しかし、洗練されたフォルムと興味深いブレスレットのデザインにもかかわらず、私の好みには少し大仰すぎて、手首にも少し大きいと感じていた。

H.モーザー ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメルのダイヤル
直径や厚さを1mm変えるだけで世界が変わるとは言わない。どの時計においても、その1mmが“大きすぎるよ、ちょっと待って”、という瞬間になることはあまりないのだ。しかしこの場合、グラン・フーエナメルがどれほど印象的であろうと、この1mmがそれ以上の効果をもたらし、文字盤よりもストリームライナー自体のほうがはるかに優れている強く主張できる。

H.モーザー ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメルのダイヤル
グラン・フーは本当に素晴らしいけどね。

H.モーザー ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメルの製造過程

ブランドの観点から見ると、サイズはモーザーにとって制限される要因であり、それの限界はほぼムーブメントにのみかかっていた。以前エドゥアルド・メイラン氏は、長いあいだ、より小さなムーブメントを推し進めてきたと語っていた。そしてH.モーザーが、最初から最後まで小規模なマニュファクチュール(コンプリケーションを含む)で成し遂げたことは素晴らしいことだったが、なかでも今回の新しいHMC 500は、これまでで最も重要な成果のひとつかもしれない。また、将来的には徐々に小さなムーブメントも製造できるようになるという可能性も秘めている。

H.モーザー ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメル
ムーブメントを小さくすることで、モーザーは時計のラインを洗練させるのに十分なだけのケースシェイプを削ることができ、それはすぐに改善された。ケースの側面は上から下へ、ダイヤルからベゼルへと滑らかで、ケースとブレスレットの境界もシームレスなものになっている。厚さ8.1mmという夢のストリームライナーほどではないが、そのレベルに達しつつある。

H. Moser Streamliner
ムーブメントのデザインだけでなく、仕上げも素晴らしい。私はモーザーのアンスラサイトのトーンと、それがほかのムーブメントの部分とどのように調和しているか見るのが大好きで、内角とスケルトナイズはムーブメントに対する自身の評価を高めている。

H.モーザー Cal.HMC 500
H.モーザー ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメルのマイクロローター
奇妙なことに、私が最も迷っているのはグラン・フーのフュメダイヤルである。誤解のないように言っておくが、色も質感も仕上がりも美しいと感じる。スモールセコンドの腕時計も普段は好きだ。しかし、グラン・フーエナメルは純粋で途切れることのないフォルムがいい。スモールセコンドのインダイヤルが独立しているのは、実物だと写真ほど気にならなかったが、スモールセコンドを完全に排除して文字盤だけ独立させる選択肢も見てみたかった。

そして、みんなも感じるかもしれないが、私が抱く最後の疑問は買い手が価格にどう反応するかである。新しいムーブメントとエナメル文字盤の芸術性がもたらす、潜在的な価値は理解できる。しかし3万ドルを超えたことで、ストリームライナーは新たな価格帯となり、厳しい競争にさらされることになった。私見ではあるが、仕上げは素晴らしいものの、それを理由に価格をつけることは、それを考慮しない多くの消費者にとって、メインとなるデザインに魅力を持つかもしれない時計が売りにくいものだといつも感じている。

現在のストリームライナーは、ロイヤル オークやノーチラスのような一般的に入手困難な腕時計に代わる、より手頃で独立した代替品という位置づけではなく、(ロイヤル オークの)16202の価格と拮抗している。また、それと同じくらい入手困難になっており、何人かの読者が“スモークサーモン”ダイヤルを入手するのを手伝ってほしいと、Instagramにメッセージを送ってきたこともある(念のために言っておくが、私には何の力もない)。

ただこのような場合、私はブランドをある程度尊重する。彼らは調査をして市場を知っているから、おそらく彼らが満たすことができるよりもはるかに多くの要求を受けると思う。この時計にはそれだけの価値があるのだ。

基本情報
ブランド: H.モーザー(H. Moser & Cie.)
モデル名: ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメル(Streamliner Small Seconds Blue Enamel)
型番: 6500-1200

直径: 39mm
厚さ: 10.9mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: 槌目仕上げのアクアブルー グラン・フーフュメエナメル、ラッカー仕上げと円形模様が施されたインダイヤル
インデックス: アプライド
夜光: あり、グロボライト® インサート付き時・分針
防水性能: 120m
ストラップ/ブレスレット: 一体型スティール製ブレスレット

シャネル ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライト。

この時計の魅力を語る言葉は数多くあるだろう。だが、そうした言葉が無意味に感じられるほどの美しさが、この時計の魅力を雄弁に語る。

シャネルでは、毎年異なるテーマで展開される限定カプセルコレクションをリリースしているが、2023年はサイエンスフィクション、宇宙旅行やタイムトラベルの世界観に着想を得たウォッチコレクションとして、シャネル インターステラー カプセルコレクションを発表した。J12、プルミエール、ボーイフレンドといったシャネルのアイコンウォッチをベースにさまざまなスタイルのユニークな限定モデルが登場したほか、自社製ムーブメントを搭載したオートオルロジュリーコレクションにおいても宇宙を想起させるユニークなモデルが製作された。ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトもそのひとつだ。

時計のメディアで仕事をしていると、トゥールビヨンウォッチを見る機会というのは少なからずある(とはいえ、身近な時計とは言いがたいが…)。その際に抱く感想は多くの場合、“よくこんなに精密なものを組み上げられたなぁ”とか、“どうやってこれだけ複雑なものが動いているのだろう”など、その機構のスゴさに関するものがほとんどだ。そうした感想に先立って、トゥールビヨンの時計を見て思わず見惚れてしまったという経験は、この時計をおいてほかにはない。

筆者の心を奪ったムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライト。モデル名にもあるとおり、最大の特徴はメテオライト(隕石)ダイヤルを採用しているところにある。シャネル曰く、このメテオライトダイヤルを製作するために、さまざまな段階を通じて特別なノウハウを必要としたようだ。

スウェーデン由来のこのメテオライトは、まず塊から切り出され、研磨・洗浄されたのち、表面の凹凸を生かすために酸で洗われる。その後、地板に直接取り付けられるようにメテオライトにはスケルトン加工が施されるが、それはメテオライトのプレートを輪列の形に合わせてカットして、その仕組みを明らかにするようにデザインされており、極めて繊細な作業が必要になる。カットされたメテオライトは、亜鉛メッキ加工により色が濃くなったステンレススティール製プレート(同じく輪列の形に合わせてスケルトナイズされている)と組み合わされているが、これもメテオライト同様に同じ凹凸をもつ素材はふたつと存在せず、唯一無二のものだ。

ムーブメントには、シャネルのマニュファクチュールによって設計・組み立てされたフライングトゥールビヨンムーブメント、Cal. 5.1を採用。1分間で1回転するトゥールビヨンキャリッジは78個の部品で構成されている。このキャリバーは昨年発表されたCal.5をベースとしたもので、Cal.5ではフライングトゥールビヨンの中央に0.18ctの大きなダイヤモンドがセットされていたが、Cal. 5.1ではダイヤモンドに代わって自社製ムーブメントの象徴であるライオンの頭部モチーフがあしらわれた。

言ってしまえば、既存のCal.5のダイヤモンドをチタン製のライオンの頭部モチーフに変更したものだが、その内実は言葉どおりの簡単なものではない。当然ながらそれぞれで素材も形も異なり、トゥールビヨンキャリッジのバランスを取るための設計も異なるからだ。立体的なライオンの頭部は、このムーブメントのために特別に開発されたもの。レーザーで彫刻されるそれは比較的軽量なチタン素材とはいえ、このトゥールビヨンキャリッジが支えられるスペースと重量からすると、開発チームにとっては大きなチャレンジとなったようで、完成までに数年を要したという事実がその困難さを物語っている。

ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトを手に取って特に感心したのは、トゥールビヨンウォッチでありながらも、その機構に固執することなく、あくまでもシャネルらしいスタイルを追求しているところだ。というのも、これまでに見てきたさまざまなトゥールビヨンウォッチのなかには、見栄えや技術的なアピールに終始していて、見た目こそ独創的ではあるものの日常的につけてみたいとは思えないものが少なくなかったからだ。

この時計はトゥールビヨンであることをことさらアピールはしてはいない。真円のなかに円を描くというムッシュー ドゥ シャネルのデザインコードを守りつつ、オープンワークスタイルのメテオライト文字盤というユニークな外観に自然とトゥールビヨンの存在がなじんでいる。また、ライオンモチーフがあしらわれたSS製3重折り畳み式バックルはシャネルおなじみのバネ式。爪を痛めずに開閉できる構造で扱いやすい。ユニークではあるが、しっかりと日常的につけることが考えられているように感じられた。

もちろん、見栄えや技術的なアピールに終始した時計があってもいいと思うし、欲を言えば、この時計においても不満に思う点がないわけではない。アワーインデックスがあったほうが時刻が読み取りやすいと思うし、23〜37分にかけてはミニッツインデックスが欠けているため、正確な分表示がわからないという点は個人的な好みからすると気になる点ではある。

だが、この時計を手に取って考えさせられたのは、現代において日常的に手に取りたいと思う時計は何かを考えたとき、視認性やつけ心地といった実用的な側面はもちろんが大切だが、時計を見て直感的に心を動かれるかどうかということは、それ以上に大切なことではないか? ということだった。そして、それこそがこの時計に込められた最大のメッセージなのだと思うに至った。

このムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトの魅力を語る言葉はたくさんある。だが、そうした言葉を飛び越えて、直感的に美しいと感じさせる魅力が確かに感じられるのだ。そういうものに出合える機会というのは、長年たくさんの時計を見ていてもそう多くはない。個人的には、過去に登場したシャネルのトゥールビヨンウォッチのなかでもっとも心引かれるものとなった。シャネルのウォッチメイキング全般を取り仕切るアルノー・シャスタン氏は、以前のインタビューのなかで、シャネルのプロダクトは装飾品として美しいかどうかが一番大切なことなのだと語っていた。ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトは、まさにシャネルならではのトゥールビヨンウォッチなのだ。

基本情報
ブランド: シャネル(Chanel)
モデル名: ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライト(Monsieur de Chanel Tourbillon Meteorite)
型番: H7956

直径: 42mm
ケース素材: 高耐性マットブラックセラミック×ステンレススティール
文字盤: オープンワークのメテオライト
インデックス: 60分刻みの目盛り入りアプライドリング
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ブラックカーフのトリミングとライニングを施したブラックナイロンストラップにSS製3重折り畳み式バックル

ムーブメント情報
キャリバー: 5.1(自社製)
機能: 時・分表示、フライングトゥールビヨン
厚さ: 5.9mm
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 28

価格 & 発売時期
価格: 1705万円(税込) ※価格は公開日時点のもの。
限定: 世界55本限定。

ブライトリングからスーパーオーシャン ヘリテージ ’57 ハイランズ カプセルコレクションが登場した。

同社が1950年代に発売したダイバーズウォッチのトリビュートとしてリリースしたスーパーオーシャン ヘリテージ ’57のスタイルをベースとしたモデルで、本コレクションではスコットランド・ハイランド地方のトレッキングからヒントを得たアースカラーとシックなツイード素材のストラップが特徴となっている。

スーパーオーシャンはもともと、優れた防水性能と日常での使い勝手を兼ね備え、機能性や信頼性を求めるダイバーはもちろんのこと、サーファーやビーチサイドでも自分のスタイルを楽しみたいというカジュアルなユーザー層を狙ったダイバーズウォッチとして設計された時計だった。そのコンセプトは本コレクションでも大きくは変わらないものの、ハイランズ カプセルコレクションは海辺は海辺でも、スコットランド・ハイランド地方の岩礁海岸と霧に覆われた峰々をイメージソースとしている。

コレクションのなかでも、最もスコットランドをほうふつとさせるディテールが、スコットランド伝統の生地をイメージしたウールとシルクのブレンドによるツイード風のファブリックストラップだ。時計はすべてステンレススティールのメッシュブレスレットを付けた状態がベーシックだが、ツイード風のファブリックストラップは別添えのポーチに入れられ、簡単に付け換えられるようにバネ棒外しも付属する。陸と海をイメージしたブルー、グリーン、マスタード、ベージュの4つの鮮やかなダイヤルカラーが用意され、ブルーダイヤルにはダークブラウン、ベージュダイヤルにはブラウン、グリーンとマスタードのダイヤルにはグリーンカラーのストラップを組み合わせ、それぞれ繊細なパターンとツイードのテクスチャーがカラーダイヤルを引き立てる。なお、ほかの組み合わせも楽しみたいという方のために、別途ブルーのツイード風のファブリックストラップを追加で購入することも可能だという。

ケースはSS製、ベゼルは傷がつきにくく耐衝撃性に優れたセラミック製で18Kレッドゴールドで縁取られている。スーパーオーシャンのオリジナルにちなんで、逆回転防止式ではなく両方向回転ベゼルを採用。ドットには夜光塗料が塗布されている。ムーブメントには約42時間パワーリザーブ(全巻き上げ時)のブライトリング キャリバー10を搭載。ほかのブライトリングの腕時計と同様、もちろんCOSC(スイス公認クロノメーター検定協会)認定クロノメーター仕様である。ハイランズ カプセルコレクションはすでに販売を開始しており、価格はすべて86万3500円(税込)だ。

ファースト・インプレッション
現代におけるダイバーズウォッチは、ダイビングで使用するという本来の目的は薄れているものの、雨などを気にせずつけられる実用時計としての需要は非常に高い。とはいえ、やはりその出自ゆえにケース径や厚みのある時計が多く、つけたいとは思っていても自分の腕に合うモデルがなかなか見つからないという声はよく聞かれる。だが、このスーパーオーシャン ヘリテージ ’57 ハイランズ コレクションなら、そんな悩みをお持ちの人であっても満足できるのではないかと思っている。

これは2020年に同じくカプセルコレクションとしてリリースされたスーパーオーシャン ヘリテージ ’57から連なる時計だ。だがより厳密にいうと、2021年に発売されたパステル パラダイスコレクションが直接的なベースとなっており、そのケースサイズは38mm径と40mmを切る小振りサイズなのだ。径が小さいだけではなく、15mm前後が当たり前のダイバーズウォッチらしからぬ9.3mmという薄型設計で、ラグトゥラグは42mm。しかもラグは腕に沿うようなカーブした形状をしている。

ブランドの公式ビジュアルでは女性がつけているため、レディスモデルと思われるかもしれないが、決して女性向けとしてリリースされているわけではないので、サイズさえマッチすれば男性がつけてもまったく問題はない。ちょうど発売された2021年に公開した記事「個人的好みから選んだお気に入りのダイバーズウォッチ9選」のなかで筆者も38mm径のスーパ ーオーシャン ヘリテージ ’57を実際に着用しているので、そのつけ心地のよさは自信を持っておすすめできる。また、パステルカラーを特徴としたパステル パラダイスコレクションと比較すると色味もはっきりとしているので、よりジェンダーレスにつけられるのではないだろうか。

ブライトリングのジョージ・カーンCEOはこの特別なコレクションの発売に際して、プレスリリースのなかで次のようなコメントを寄せている。

「ブライトリングのカプセルコレクションには、そのすべてにそれぞれのストーリーがあります。スーパーオーシャン ヘリテージ ’57 ハイランズ コレクションでは、スコットランド高地を歩いているような特別な感覚を呼び起こしたいと思ったのです。ツイードジャケットとウールのセーターを着て出発する瞬間から、風が吹きすさぶ崖を歩く1日、無事に帰って愛犬を隣にパチパチとはじける火で暖を取るまで。ハイランズ コレクションは、あらゆるシーンに寄り添えるように設計されています」

ブライトリングのカプセルコレクションは、ダイバーズウォッチだからこうでなくてはならない、というような文脈では作られていない。ダイバーズウォッチだからといって、海でつけなくても、夏につけなくたっていいのだ。「プロフェッショナルのため計器=ブライトリング」を全面に押し出していた(今もそういったイメージが失われているわけではない)かつてのブライトリングからすると、非常に時計づくりの自由度が増しているようだ。先日、ブライトリングのオーナーグループであるパートナーズグループが、ユニバーサル・ジュネーブの買収を発表したが、もしかしたら今後、“マイクローター(ユニバーサル・ジュネーブではマイクロローターをこう呼ぶのだ)”を搭載したスーパーオーシャン ヘリテージ ’57が登場するなんてことも夢ではないかもしれない。

さて、現実に戻ってムーブメントに関してはどうしても言っておきたいことがあるので、付け加えておこう。本コレクションが搭載するムーブメントはCOSC認定のクロノメーター仕様とはいえ、約42時間パワーリザーブ(全巻き上げ時)しかない。いまや70時間前後、約3日巻きが主流になりつつあるなかではどうしても物足りなさを感じる。もしこの時計に3日巻きのムーブメントが搭載されていたら…。筆者が欲しい理想のダイバーズウォッチ候補となったかもしれない。

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基本情報
ブランド: ブライトリング(Breitling)
モデル名: スーパーオーシャン ヘリテージ ’57 ハイランズ カプセルコレクション(Superocean Heritage ’57 Highlands Capsule Collection)
型番: U10340161C1A1(ブルー)、U10340361L1A1(グリーン)、U10340281I1A1(マスタード)、U10340E31A1A1(ベージュ)

直径: 38mm(ラグトゥラグは42mm)
厚さ: 9.3mm
重さ: 110.5g(ブレスレットの場合)
ケース素材: 18Kレッドゴールドベゼル&ステンレススティール
文字盤色: ブルー、グリーン、マスタード、ベージュ
インデックス: くさび型のアプライド、3・6・9・12時位置はドット+くさび型のアプライド
夜光: 時・分・秒針にスーパールミノバ®夜光
防水性能: 10気圧(100m)
ストラップ/ブレスレット: オーシャンクラシックSS製ブレスレット、バタフライクラスプ式。ブルーには差し色がダークブラウン、ベージュには差し色がクラシックブラウン、そしてグリーンバージョンとマスタードバージョンには差し色がグリーンのファブリックストラップが付属。

ムーブメント情報
キャリバー: ブライトリング 10
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 25.6mm
厚さ: 3.6mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/ 時
クロノメーター認定: COSC
追加情報: ボールベアリングによる両方向回転式

価格 & 発売時期
価格: 86万3500円(税込)

ゼニス エル・プリメロ プロトタイプに敬意を表したクロノマスター オリジナル トリプルカレンダー

55年前の希少なエル・プリメロ プロトタイプに敬意を表した、まったく新しいコンプリートカレンダーキャリバー。

これこそ、私が支持できるリリースだ。これは新しいコンプリートカレンダーキャリバーを搭載したゼニス クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーである。その外観から、すでに私はこの時計に心を奪われている。バランスの取れたデザイン、38mmのサイズ、そしてトリプルカレンダー ムーンフェイズ クロノグラフ。たぶん3年前であれば、新しいリリースに関して、この3つのことを言及するとは思ってもみなかっただろう。

しかし、それは物語の始まりに過ぎない。クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーは実のところ、1970年に発表された希少なエル・プリメロへのオマージュで、そのコンセプトの証明としてわずか25本しか製造されなかった。ゼニスは、その遺産を現代のラインナップに組み込むという素晴らしい仕事をし、これはそのなかでも特に優れた作品のひとつといえる。

カラーオプションは3色。ホワイト、スレートグレー(オリジナルのプロトタイプへのオマージュ)、そしてブティック限定のグリーンだ。

ゼニスによれば、このケースは単にヴィンテージからインスパイアされているというだけではなく、1969年に発表されたオリジナルのA386の設計図とプロポーションを忠実に再現したものだという。クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーのステンレススティール製ケースのサイズは38mm(ラグからラグまでは46mm)、厚さは13mmだ。文字盤カラーは、ホワイトにブラックのインダイヤル、スレートグレーにホワイトのインダイヤル、そしてブティック限定のグリーンエディションの3種類がラインナップされている。

さて、この時計について語る前に、この時計のインスピレーションの源となった1本について触れたいと思う。というのも、この時計は私をバネ棒のように締まりなくさせる類のものだからだ。1969年にオリジナルのエル・プリメロ A386は、トリプルカレンダー、ムーンフェイズ、クロノグラフを搭載するように設計された。ゼニスはこのアイデアをテストするため、25本のプロトタイプを製作したが、そのあいだにコアとなるクロノグラフの人気が急上昇。初の自動巻きクロノグラフのひとつとして人気が高まり市場に投入されると、カレンダー付きエル・プリメロの計画は頓挫したのだ。やがて70年代に、より宇宙時代的なものとして再検討されるまで放置されるに至ったのである。

これらエル・プリメロのプロトタイプはこれまでに数本しか公開されておらず、1本は2012年に約4万ドル(当時の相場で約300万円)で販売され、もう1本は2015年に約7万5000ドル(当時の相場で約940万円)で販売された。ゼニスはのちに、このプロトタイプを2012年に入手したことを明らかにした。それから12年後、新バージョンで再登場させたゼニスに対して、私はこう言わざるを得ない。よくやってくれた!

新しいクロノマスター オリジナル トリプルカレンダーは、1970年に製作された25本のエル・プリメロ プロトタイプをベースにしている。この計画は頓挫し、商業生産には至らなかった。のちにゼニスは、右のモデルを2012年に入手したことを明らかにしている。Images: Courtesy of Phillips and Christie’s

新しいスレートグレーモデルはオリジナルのプロトタイプをそのまま甦らせたもので、ほかのふたつはモダンなテイストを提供している。しかし、これらは忠実な復刻版ではない。クロノマスター オリジナル トリプルカレンダーはディナーの際にジャケットを羽織るようなデザインで、針とインデックスにはローズゴールドメッキが施され、よりドレスアップした印象を加えている。

ゼニスの新しいエル・プリメロ Cal.3610は、既存のエル・プリメロ クロノグラフキャリバーにカレンダーモジュールを追加したものだ。3万6000振動/時(5Hz)で駆動する同じベースムーブメントを用い、クロノグラフ針が10秒ごとに文字盤全体を回転する。そう、遊んでいて決して飽きることはなかった。

オリジナルのプロトタイプからインスピレーションを得たスレートグレー文字盤。

そしてモダンなグリーンの文字盤。

ホワイト文字盤とグレー文字盤は一般に販売され、グリーン文字盤はゼニスの実店舗およびオンラインブティックでのみ購入できるブティック限定エディションだ。いずれもカーフスキン製レザーストラップ、またはSS製ブレスレットを用意。希望小売価格はブレスレットモデルが183万7000円、ストラップモデルが176万円(ともに税込)だ。

ここ数年、私はゼニスがリリースする時計に感銘を受けてきたが、この時計もそのリストに加えてもいい。私が10年ほど前に時計に注目し始めたとき、正直に言うとゼニスにはあまり注目していなかった。それもすっかり変わってしまった。昨年のブラック文字盤の“クールな”エル・プリメロから、チタン製のデファイ リバイバル シャドウ(Three On Three記事でチューダーとグランドセイコーに真っ向勝負を挑んだ時計だ)まで、ゼニスは多くのブランドが目指すヘリテージと現代的ウォッチメイキングのあいだのスイートスポットを見つけることに成功している。これらの時計はすべてゼニスのヴィンテージウォッチとの明確なつながりがあるが、ヘリテージを誇張することはない。

これらの時計は完璧ではない。私はまだゼニスからよりよいブレスレットの登場を望んでいるが、それについては前回のエル・プリメロのレビューで取り上げたので、済んだ問題について論議するつもりはない。もうひとつ小さな要望を挙げるなら、オリジナルのプロトタイプには10時と2時位置にスターインデックスがあったことに気付いているだろうか? それを新しいクロノマスター オリジナル トリプルカレンダーにも組み込んで欲しかった。

ところで、ゼニスは以前にもこのようなことを行なっている。2014年に、ゼニスはエル・プリメロ トリプルカレンダー リミテッドエディション(エル・プリメロ 410)を発表した。しかしそれは42mmで、魂が欠けていたようだった。我々は皆この10年で長い道のりを歩んできたが、ゼニスの製品にはそれが如実に表れている。

スタンダードなエル・プリメロ クロノグラフは価格(ブレスレットで約150万円)面で厳しい競争に直面しているが、トリプルカレンダーとムーンフェイズを搭載してしまえば、直接の競争相手を考えるのは難しい。最も直接的なライバルは、ブライトリングのプレミエ B25 ダトラ42で、こちらは176万円(税込)だが、42mm×15.3mmというパッケージをの素晴らしい時計である。ミッドセンチュリーの美学がイームズチェアと共通するとしても、このふたつがまったく同じ手首を求めて競っているとは言い難い。

今月初め、LVMHは2017年からゼニスのCEOを務めてきたジュリアン・トルナーレ氏が退任し、タグ・ホイヤーの同職に就くと発表した。このような製品は、彼がブランドを前進させながら、いかに伝統を現代のカタログに取り入れたかを物語っている。私は彼がさらに重要な歴史を持つブランドであるタグ・ホイヤーでも同じことをしてくれることを願っている。

一方のゼニスは、この調子のままで。

基本情報
ブランド: ゼニス(Zenith)
モデル名: クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー(Chronomaster Original Triple Calendar)
型番: 03.3400.3610

直径: 38mm(ラグからラグまでは46mm)
厚さ: 13mm
ケース素材: SS
文字盤: ホワイトにブラックのインダイヤル、スレートグレーにホワイトのインダイヤル、グリーンにエディションホワイトのインダイヤル
インデックス: ローズゴールド(メッキ)の針とインデックス
夜光: スーパールミノバ SLNC1
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: SS製ブレスレット、またはカーフスキンストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: ゼニス エル・プリメロ 3610
機能: トリプルカレンダー(曜日、日付、月表示)、ムーンフェイズ表示、10分の1秒計測クロノグラフ(10秒ごとに文字盤を1周)
直径: 30mm
パワーリザーブ: 60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 35
振動数: 3万6000振動/時(5Hz)
追加情報: コラムホイール式エル・プリメロ クロノグラフ