ブルガリ セルペンティのスタイリング 最も美しい、4つのスタイルを紹介。

スタイルエディターのマライカ・クロフォードが愛用の腕時計をより最高の状態にするための方法を紹介するHow To Wear Itへようこそ。このセクションではスタイリングのコツから現代におけるファッションの考察、歴史的な背景、ときには英国流の皮肉も織り交ぜて、その魅力をお伝えしていこう。

セルペンティに愛情を捧げている。それを考えるたびに、無条件の賞賛と目がくらむようなヒステリックな感覚に見舞われる。当然、最高で神聖な装飾品は、本能的な独特のよろこびを与えてくれる。個人的な満足度を求めないなら、なぜわざわざジュエリーや時計を身につける必要があるのだろうか? 私は指や手首に嵌められた、滑らかで光沢のある金のジュエリーを眺め、それぞれのアイテムが光を受け、身につけているものの色や質感が生み出すコントラストを見るのが好きだ。

私は機能的な服装ではなく、自身の気分を上げるために服を着ている。そしてセルペンティは、私をとてもいい気分にさせてくれる。

ファッションは今や民主的な領域である。以前はルールによって決められた制度だったが、若者と黒人文化が人々の着るものに大きな影響を及ぼし始めた、60年代後半のユースクエイク(若者たちの行動が社会や文化を動かす社会的変化)でそれは崩れた。もちろん、個々人は常にファッショナブルだったが、社会の要求やシーンに応じた服装をしていた。それが70年代に入るとファッションは方向を変え、上流階級が定めた服装の規範を放棄。ダイヤルもこれに伴い、いままで見られなかった自由なスタイルへとシフトしていった。

今日、私たちは快適さ、機能性、そして性的魅力のために、個々で選択をして服を着ている。一部の人にとってスタイリングは、個性を表現する方法となっているが、ほとんどの人にとっては常に従う方法であり続けているだろう。基本的には誰もがほかの人と同じように見られたいと思っているが、それについてはまた別の機会に話そう。なぜなら私のHow To Wear Itファンタジーの世界では、みんながよろこびを自由に表現するために服を着ているからだ。

セルペンティは私を自由な気持ちにさせてくれる。時計的な意味合いの重荷(そうだな、ラグからラグまでとかマイクロアジャスト機能とか)を背負うことなく身につけられるのだ。私は政治的には中立だと考えている。それを着用することで注目を集めるが、それは常に正しい理由と最高の賛辞のためである。直径やジェンダー政治、さらに悪いことに機械的な完璧さについて、議論を巻き起こすことはない。

ブルガリ セルペンティを身につけた女性
女性向け時計市場に伴う、創造性の欠如について考えると、私は多くの時間を憤りの渦のなかで過ごしている。実際のところ、女性が何を身につけたいのか、どのようにして製品を売り出す必要があるのか、真剣に理解しようとしてつくられた女性向けの時計はほとんどないのだ。だから自分が持っていた、時計学的な知識のかけらが突如として脳から流れ出たとしても、それでもなお魅力を感じるとわかっている数少ないモデルに引き寄せられてしまう。そのほうが簡単だからだ。私は本能ではなく直感で選んでいるのであって、傲慢なマニアによるニセモノの時計学を誇示しているわけではない。

セルペンティは基本的にジュエリーなので、自身のパーソナルスタイルに合っていると思う。アッパー・イースト・サイドやヨーロッパのさまざまな都市(いろんなところ)で、数人のスタイリッシュな女性がこれを着用しているのを見たことがある。それを見つけるといつもワクワクする。ベストな目撃例は、パリッとした白いシャツの袖口の下から、時計が控えめな輝きを放ったりのぞいたりすることだ。あるいは(まっさらな肌の)ブロンズ色の腕にセルペンティを巻き付けているのを見るのも好きだ。その人間工学に基づいた設計により着用者の腕と一体化しているが、彼女(セルペンティ)の重なったバングル、完璧なまでにくたっとしたスラウチーバッグ、ダメージ加工されたデニムによちカモフラージュされるも、彫刻のようなユニットとして際立っている。それがクールに見えるのは、カジュアルながら考え抜かれた、彼女が自分に合うと思った方法でスタイリングしたからである。

このゲームの目的は、洋服、アクセサリー、時計を手に取り、それらを自分だけのサルトリア(仕立て)コードへと組み込むことである。既成概念にうまく溶け込ませることで、自分だけのスタイルへと変身できるのだ。

セルペンティはジュエリーであり、またデザインの一部であり、身につけられる彫刻でもある。事実セルペンティウォッチの歴史は1940年代後半、ブルガリで様式化されたトゥボガスウォッチまで遡る。トゥボガスはブランドにとって非常に重要なデザインコードであり、イタリアのインダストリアルルーツの一部だ。“ガス管を高級品に変えられるのはブルガリだけです”と、ブルガウォッチのクリエイティブ・ディレクターであるファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ(Fabrizio Buonamassa Stigliani)氏は言う。“私たちのインダストリアルデザインのルーツの一部なのです。イタリア流に言うと、機能に従った形です”。今年の初め、ボナマッサ・スティリアーニ氏は私にそう語った。

ミッドセンチュリーなセルペンティは、シークレットウォッチとするために、ヘビの頭を蝶番で取り付けたより自然主義的なものだった。これらの初期のセルペンティの多くは、しばしば本物のヘビ皮革の色、模様を真似たエナメル細工で作られていた。セルペンティはさまざまな紆余曲折を経て、多様な金属、サイズ、さらには複雑機構(小さいトゥールビヨンを搭載していたこともある!)を持つ、複数のバリエーションへと姿を変えていった。

私は最近、ニューヨークで開催されたブルガリのセルペンティ 75周年展を訪れた。そこには、神秘的なローマの骨とう品棚やブルガリの秘密の金庫から取り出されたお守りのように、何十年分ものセルペンティが終結していた。宝石で覆われた、光沢のある金色の彼らは、台座の上でとぐろを巻いて休み、私をじっと見つめていた。

幸運なことに、私は関係者たちを説得して、このHow To Wear Itセクションのためにいくつかのアーカイブを貸してもらった。エナメルに塗られたゴールドとペアシェイプのダイヤモンドに臆することなく酔いしれ、私が思う完璧なレディスウォッチを堂々と楽しむときが来た。

ルック1: 恥じない90年代ノスタルジー
ブルガリ セルペンティを身につけた女性
ジャケット/ヴィンテージ、タンクトップ/スタイリスト私物、パンツ/バレンシアガ、シューズ/セリーヌ。

バレンシアガのデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)、グレッグ・アラキ(Greg Araki)監督の『ドゥーム・ジェネレーション(原題:The Doom Generation)』で主役を務めたローズ・マッゴーワン(Rose McGowan)、マーティンローズのトリクルダウン理論(富裕層が富むと経済が回り、低所得者を含む広い層にもその恩恵が及ぶ経済理論)に基づいたモトクロスは、恥じない90年代ノスタルジーの衣装だ。ファッションの回想へのこだわりは、ときに表面的なものに感じられることもある。しかしジェラルド・ジェンタや1970年代のファンボーイ(マニア) / 不健康な熱狂クラブなどは似たり寄ったりなコンセプトだ!

この服装は、ダイヤモンドを身につけるのも好きな現代ファッションの信奉者のためのものである(基本的にこの時計を買う余裕があるかどうかを見極める方法である)。ハイジュエリーウォッチを、普段使いのパンテールやレベルソと同じように扱ってみたらどうだろう? それはロジックの究極の逆転である。いわば逆さまなのだ。理論上は意味をなさないが、効果はある。

いい心構えをしていれば、ベビーブルーのバイカージャケットに、1968年製のルビー入りプラチナ&イエローゴールドのセルペンティをつけることができる。人によっては大胆すぎると思うかもしれないが、私は遊び心があると思う。ジーンズに白いTシャツ、そして高級時計の組み合わせという単なるステップアップであり、同じ対照的なコンセプトなのだ。

このキャラクターは、雑誌『Dutch』や『The Face』のバックナンバーを何度も読み返し、難解なファッションの参考資料の知識を蓄えていった歳月へのオマージュだ。これらのページは、ユースカルチャーがデジタルではなく有形であった時代を垣間見ることができた。しかしそれは過去と未来のどちらにも縛られることなく、両者のバランスを見つけることに尽きる。セルペンティも過去の“遺物”だが、アップデートが施され現代にも合っている。ただ最も重要なのは、これがクラシックであり続けているということだ。

ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ・ムーンフェイズ・レトログラード・デイト。

しばらくのあいだ、自身がニューヨークでアイスランドに行かなかった最後の人間のように思えた。というのも私の心の一部が、なぜほかの人たちと同じことをするのかと抵抗していたからだ。家族の出身地であるノルウェーか、ドラマチックな山岳風景があるパタゴニアに行きたい。でも私がアイスランドを訪れないのは、みんなが好きなテレビ番組を見るのを我慢するようなものだった。アイスランドは大げさに宣伝されていて、期待に応えられないのではないか? と。

アイスランドにあるクヴェルヌフォスの滝は、国内で最も有名な滝のひとつからそう遠くないところにあるが、そこはより静かで、人里離れた体験ができる世界が広がっている。

時計ではよくある話だ。熱狂という列車が街中を疾走し、誰もが乗車できる。ほかの誰もが疎外感に苛まれる。金銭的な理由の場合もあれば(誰もが今話題の時計を買えるわけではない)、自分が遅すぎるということもある。いずれにせよ、時計収集の悲しみの段階のようなもの、つまり否定、怒り、駆け引き、憂鬱、そして受け入れを経験する。しかし長い目で見ることができないのは、時計収集の世界において最大の敵である。熱狂が薄れていくと、最初に物事を偉大にしたものだけが残されるのだ(そして価格が必然的に下がり、時計が小売店から入手できるようになり始める)。

基本的にヴァシュロン・コンスタンタンのオーヴァーシーズのどのブルーダイヤルも、ここしばらくのあいだは入手が困難だった。パテックやオーデマ ピゲのアイコンと同様、オーヴァーシーズはスティールブレスレット一体型の高級スポーツウォッチとして、独自に細かい工夫を施しながら成功を収めてきた。ヴァシュロンのプレスチームは、腕時計を“バンドル”(何かとセットにして売る)していないし、もっとお金をかければブルーオーヴァーシーズを早く手に入れられるわけではないとも断言している。しかし、もし手に入れることができなければ、過剰な宣伝だと自分自身を納得させることができる時計のひとつであることは確かだ。

ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ・ムーンフェイズ・レトログラード・デイト。

ただ不思議なことに、これは高級スポーツウォッチのラインナップのなかでも、言葉は悪いが、実際に“使える”と感じる時計のひとつでもある。ほかの主流であるロイヤル オークは、ケースの打痕や傷の摩耗を考えると登山に携行したい時計ではない。ノーチラスは美しくエレガントだが、実際にはスポーティさを強調するには程遠い。その点、オーヴァーシーズの3針モデルは358万6000円(税込)と高額だが、少なくとも150mの防水性能を備えている(どちらの競合モデルよりも防水性が高い)。さらにこのパッケージは薄くて快適に装着できるほか、レザーやラバーストラップにすぐに付け替えられるクールなブレスレットも備えている。そして、サンバーストのブルーダイヤルは今でも素晴らしいものであり、それがそもそも人々が欲しがる理由でもある。

そこで私は、手首に新しいヴァシュロンのオーヴァーシーズ・ムーンフェイズ・レトログラード・デイトをつけて、アイスランドに赴いた。ただこれは、防水性わずか50mであり、オーヴァーシーズのなかで最も頑丈な時計ではない。実際、3月の時点で私はこれをヴァシュロンの“象徴する複雑機構”と呼んでおり、スポーツをする上で特に役立つものではない。価格も629万2000円(税込)と3針よりかなり高い。しかし、私がやろうとしていたことではそれは相応しかった。何よりも私の大きな疑問は、“スポーツウォッチ”がどこまで“ラグジュアリー”に近づけば、そのふたつの考え方が衝突するのかということだった。

魅力的な滝を追いかける筆者。

これは正統なHands-On記事ではないだろう。実際にこのモデルのスペック(41mm径×10.48mm厚のSS製ケース、約40時間のパワーリザーブ、122年先まで修正の必要がないムーンフェイズという事実以外)を詳しく知りたい人は、こちらのIntroducing記事を参照して欲しい。その代わりこれから先の記事では、スポーツウォッチはどこまでラグジュアリーになり得るのかという問いに(そっと)答えるので、これは視覚的な口直しだと思って欲しい。でもその前に、なぜ私がアイスランドにまで来たのか、その理由を説明しよう。

ヴァシュロンは先週、アーティストのザリア・フォーマン(Zaria Forman)氏をブランドの新しいパートナーとして発表した。ほとんどの場合、ブランドパートナーには著名人が起用されるが、彼らがイベントに参加できるのは年に数回、数時間に限られる。しかしフォーマン氏は、ヴァシュロンが彼女に注目するきっかけとなった、気候を意識した彼女のアートワークを深く理解して欲しいと、娘と夫から離れてアイスランドに1週間滞在する予定だった。彼女の大規模なパステル調の風景画や、氷が溶ける様子を細部まで描いた繊細なアートは、“写真のようにリアル”なのではなく、リアルで気候変動が起きているのを見ているような気分にさせる。そして、その作品にさらに命を吹き込むために私たちはアイスランドを横断し、彼女の最新作のインスピレーションの源泉となった風景を見に行く旅に出た。私たちはアイスランドの首都、レイキャビクにあるハルパ(コンサートホール&会議センター)から出発し、ザリア氏の作品を見てこれからの旅に備えることにした。

アイスランドにて、ザリア・フォーマン氏のアートが展示されたハルパ会議センターとコンベンション・センターからの眺め。

ザリア・フォーマン氏のアートは大規模なパステル画が中心だ。長年にわたり、気候変動の最前線にある風景に焦点を当てており、現在は融解する氷の細部にこだわった作品を手掛けている。

ザリア氏が作品に使うパステルは絵画の一種であり、軽くて柔らかい色を表現するのに使用される。

ヴァシュロン・コンスタンタンのアーティストであり、ブランドパートナーであるザリア・フォーマン氏が登壇した。

ハルパで夢を見よう。そしてしばらくのあいだ、都会の風景を見るのはこれが最後となる。

最初の目的地はクヴェルヌフォスの滝だ。友人たちがアイスランドで下手な写真は撮れないよと言っていたので、それがプレッシャーになった。しかし間近へと近づくたびに、いいアングルへと変わっていった。

しかし私としては風景と同じくらい時計のためにそこにいたので、できる限り急いで、この時計を撮影する時間を設けなければならなかった。

私の好きなアングルは、太陽に向かって影を作りながら撮影する“ショートライト”だ。しかし、それは多くの場合、少し遠くへ行って自身(それと時計)を不安定な状況に身を置くことを意味する。いちばん上のオーヴァーシーズの写真で、時計が濡れているのがわかると思うが、本物のスポーツウォッチでは問題ないはずだし、この時計でも問題はなかった。

これもショートライトでの撮影だ。

私たちはフャズラオルグリューブル近くにあった、曲がりくねった川で昼食をとった。ほとんどの人が食事をしているあいだ、写真を撮るのをやめられなかった。

ひび割れ、苔の生えた風景の上からの眺め。

アイスランドで最も象徴するもののひとつが馬だ。彼らは2000年代初頭のエモーショナルなルックス、がっしりした体格、特異な歩き方をしている。もしアイスランドの馬が島から輸出されたら、歩き方を覚えて2度と戻ってこないかもしれない。

普通のクォーターホースよりかなり背が低く、表向きは私が乗るつもりだった。6フィート7インチ(約2m)の私は馬に申し訳ないような気がしたが、彼らはこれ以上馬が悪くなることはないと保証してくれた。

馬のオーナーたちは、私が時計を撮影しているのを見て興奮し、撮影用にモデルまでしてくれた。彼が着ていたセーターは、ロパペイサまたは“ロピ”セーターとして知られている、アイスランドのウールを使った伝統的なニットで、アイスランドにて手作りされているそうだ。アイスランドのウールを使い、アイスランドで手編みされてこそ、真のロピセーターと呼べるという。まさにシャンパンのようなものだ。

毎晩、オーロラの予報をチェックしたが、ムーンフェイズの星や雲の切れ間から覗くわずかな星を眺めるのが精一杯だった。

後ろに見えるのはフャズラオルグリューブル。

Icelandic horses
アイスランドの馬はでこぼこした地形にぴったりだが、私のような観光客にも当然適している。彼らはお互いに鼻を突き合わせるのが好きなようで、仲間外れにされると寂しくなる。だからこの馬は誰も乗っていない状態にもかかわらず、乗馬に出てかけていた。

ウブロ×ダニエル・アーシャムによる新作を発表した。

今週、ウブロはアーティストのダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)氏との継続的なコラボレーションをさらに推し進め、MP-17 メカ-10 アーシャム スプラッシュ チタニウム サファイアという斬新な新作を発表した。モデル名には素材名がそのまま使われているが、素材自体は業界で一般的なものだ。それにもかかわらず、その造形はウブロにとってまったく新しいものだ。

中身には、今年初めに発表された小型化、かつ仕上げ面で大きく改良された新メカ-10を搭載。シャイニーマイクロブラスト仕上げのチタニウム製ケースは直径42mm、ケース厚15.35mmとなっている。外観だけを見ると、ケースは一見クラシカルな印象を与える。ブラックラバーの一体型ストラップのあいだに、ラウンドケースが浮かぶように配置されているからだ。だがダイヤルとベゼルの造形は、その印象を一変させるほど独創的である。

アーシャム氏とウブロの初コラボレーション作、アーシャム ドロップレットから直接デザインDNAを受け継ぎ、ベゼルはレーザー加工によるフロスト仕上げのサファイアクリスタルで成形。その造形は水しぶきから着想を得た流麗なフォルムだ。ウブロの象徴であるH形ビスで固定され、その内側には同じスプラッシュ形状を取り入れた見返しリングが広がり、オープンワークのメカ-10 ブリッジを縁取ることで独特なダイヤルデザインを構成している。本作はスモールセコンド、ラック&ピニオン式のパワーリザーブインジケーター、そしてテンプがすべて見える構造となっており、アーシャム氏を象徴するアーシャムグリーンの差し色と夜光が全体をまとめ上げている。

裏返すと、ダイヤルと呼応する形状のサファイアクリスタルを組み合わせたチタン製の裏蓋が現れ、手仕上げによるアングラージュを含む、大幅に改良されたCal.HUB1205の姿を鑑賞できる。MP-17 メカ-10 アーシャム スプラッシュ チタニウム サファイアは世界限定99本で、価格は904万2000円(税込)だ。

我々の考え
アーシャム ドロップレットのポケットウォッチと同様に、このMP-17もきわめてニッチな市場を狙ったモデルだと感じる。彼のデザインタッチを楽しみつつ、どこへでも身につけていける時計を求める人々に向けられているのだ。

第一印象としては、どこか(カルティエ)クラッシュをほうふつとさせるので、クラッシュしたウブロとも言えるかもしれない。これほど流動的で液体的なフォルムを持つ新作を見ると、あのアイコンを思い出さずにはいられない。だがアーシャム氏とのコラボレーションにおいては、アーシャム ドロップレットのポケットウォッチで確立されたデザイン言語とのつながりがしっかりと感じられ、その結果本作は独自の個性をしっかりと保ちながらも、ウブロらしさを堂々と打ち出している。

基本情報
ブランド: ウブロ(Hublot)
モデル名: MP-17 メカ-10 アーシャム スプラッシュ チタニウム サファイア(MP-17 Meca-10 Arsham Splash Titanium Sapphire)
型番: 917.NJ.6909.RX

直径: 42mm
厚さ: 15.35mm
ケース素材: チタン
文字盤: アーシャムグリーンのスーパールミノバを塗布したロジウム、シャイニー仕上げのマイクロブラスト加工
インデックス: アプライド
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: アーシャムモノグラムの装飾を施した一体型ラバーストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: HUB1205
機能: 時・分表示、スモールセコンド、パワーリザーブインジケーター
直径: 33.5mm
厚さ: 6.8mm
パワーリザーブ: 約240時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 29
クロノメーター: なし

価格&発売時期
価格: 904万2000円(税込)
発売時期: 11月12日(水)から11月18日(火)まで、伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージにて先行販売。11月19日より、ウブロブティックで発売予定
限定: あり、世界限定99本(ウブロブティック限定販売)

1951年に輝ける星をイメージした時計ブランド、オリエントスターを誕生させた。

自社製ムーブメントを用いた機械式時計を作り続け、2017年からはセイコーエプソンと統合。国産では珍しい機械式ムーンフェイズ機構やシリコン製のガンギ車などを開発し、趣味性と機能性を両立させる時計づくりを進めてきた。

そして2023年からはブランド哲学を深める一方でコレクションの整理・統合を推進し、時計愛好家に向けて新たに“Mコレクション”をスタートさせた。この“M”とはフランスの天文学者シャルル・メシエが製作した星雲・星団・銀河のカタログに収められた天体表記からの引用で、M1はカニ星雲、M31はアンドロメダ銀河など有名な天体を識別するために使われている。

新たに始動したMコレクションは、3つのコレクションでスタートした。もっとも普遍的でフォーマルなデザインをもつのが“M45”で、肉眼でも星が密集している様子がわかることから、太古の時代から世界中で愛されてきた星団“すばる/プレアデス”の名を冠している。時代性を機敏に取り入れるのは“M34”だ。“ペルセウス座”の語源であるギリシャ神話の勇者ペルセウスを思わせるシャープなラインを特徴とする。そしてアクティブなスポーツウォッチの“M42”は、“オリオン座”のこと。オリオンの父である海神ポセイドンにちなんで高い防水性を備えたアクティブなモデルとなる。

これまでの日本の時計は技術的には世界レベルであったものの、モデル名と顔やスタイルが一致しにくかった。すなわちそれはブランド戦略が曖昧だったということでもある。そこで前述の通り、オリエントスターではすでに確立した技術をベースにしつつ、宇宙をイメージさせるロマンティックな時計としてそれぞれ基本デザインを明確に規定をしコレクションを整理・統合。“星々”や“宇宙”など各モデルに名称にちなんだストーリーとデザイン、そして機能を与えることで、モデルごとの個性を明確化させた。それは長期的な視点に立った時計づくりを行なっていくという決意表明であり、技術力だけでなく変わらない価値をも提供しようという、これまでになかった新しい戦略をオリエントスターは打ち出したのである。

神秘的なオーロラを表現した色の揺らめき

M34 F7 セミスケルトンブルーグリーングラデーションダイヤル

Ref.RK-BY0001A 14万3000円(税込)
SSケース、SSブレスレット。ケース径40mm×ケース厚13mm(全長47.3mm)。10気圧防水。自動巻き(手巻き付き) Cal.F7F44:24石、2万1600振動/時、約50時間パワーリザーブ。本ワニ革ストラップ付きのRef.RK-BY0003Aは15万4000円(税込)で、オリエントスター プレステージショップにて販売。

“M34”はオリエントスターの中核をなすコレクションだ。コレクション名になっている“M34”は約100個の恒星で構成されるペルセウス座の星団のことで、毎年8月に流星群が出現するため天体ファンからも人気が高い。ちなみにこのペルセウスとは、ギリシャ神話における全能の神ゼウスの息子ペルセウスのことであり、ここにも宇宙や星の世界観を取り入れている。

新作のM34 F7 セミスケルトンは、ダイヤルに工夫を凝らしたモデルだ。9時位置からムーブメントを見せるスケルトンデザインも気になるが、何といってもポイントとなるのはダイヤルの色調である。これは神秘的なオーロラを表現したもので、その表現には白蝶貝にグラデーション塗装を重ねるという手法が取られた。ダイヤルのベースとなる白蝶貝の中央部分にはグリーン、12時位置と6時位置へと変化していくようにブルーのグラデーションを施した。

ある角度では白蝶貝の班の模様とグラデーションが際立ち、またある角度で見ると班の模様が控えめになる代わりに落ち着いた色味が際立つ。それはまさに空の上で不思議に揺らぐ光のカーテンが織りなすオーロラの色であり、美しい夜空の情景を巧みに表現している。

白蝶貝とグラデーション仕上げでオーロラを表現したM34 F7 セミスケルトンだが、華やかなデザイン表現だけが魅力ではない。マニュファクチュールブランドの時計として確かな性能を秘めている。時を告げる実用品であるからには視認性を犠牲にすることはできない。そこで針をしっかり読み取るために、ダイヤルのブルー系とは補色の関係になる金色の針やインデックスを使用。しかも上面は筋目仕上げ、斜面をポリッシュ仕上げにすることでメリハリのある輝きをみせる。

12時位置にはパワーリザーブインジケーターが収まる。連続駆動時間は約50時間だが、必要にして十分なレベルであろう。そしてケースデザインの特徴は、ケースサイドやラグに現れる。キレのある斜面を複数組み合わせることで美しい稜線を作り、美しい陰翳を作りだす。

そして搭載するムーブメントには自社製のCal.7F44を採用する。日差+15~-5秒の精度を確保、リーズナブルな価格帯のモデルでありながら、自動巻きローターには筋目模様を入れており、シースルーバックから見える姿にもこだわる。

M34 F7 セミスケルトン

同じ白蝶貝のダイヤルベースでありながら、グラデーションを巧みに扱ったバリエーションモデルもラインナップする。ブルーグラデーションダイヤルよりも柔らかな表情を作るブラウンダイヤルは、公式オンラインストア「with ORIENTSTAR」にて販売される。そしてシックな印象のチャコールグレーダイヤルは金色針が際立ち、より華やかに見せる。こちらは300本の数量限定モデルだ。

先鋭的なスタイルと力強いディテールを与えて日常的に幅広いシーンでつけることを想定したM34に対して、オリエントスターの歴史的なモデルにも見られるディテールを持ち、ブランドの伝統を継承するのがM45だ。伸びやかな長めのラグと広く取られたダイヤルをデザイン上の大きな特徴とし、特に新作のM45 F7 メカニカルムーンフェイズにおいてはローマン数字のインデックスとリーフ針、そして細いベゼルがドレッシーな雰囲気を作り出している。

M45 F7 メカニカルムーンフェイズは文字どおり、国産では珍しい機械式のムーンフェイズウォッチであり、M34以上に凝ったダイヤル表現が見どころだ。白蝶貝にブラウンのグラデーション仕上げを施して表現したのは、秋田県の山奥にある神秘的な湖として知られる田沢湖。晩秋の日沈直後、湖面が赤く輝く一瞬の静寂と叢雲(むらくも)のなかに見える美しいシルバーの月という、日本の秋の情景を時計で表現しているのだ。しかもベゼルにもブロンズ色のメッキを施しており、ダイヤルのなかの情景は、そのまま時計の外へと繋がっていく……。宇宙や星を軸とした美しいストーリーを紡ぐオリエントスターらしい時計だ。

こうした凝ったダイヤルをより一層美しく見せるためには、技術的な進化も欠かせない。例えばサファイアクリスタル風防には、多層膜コーティングで耐傷性を高め、さらに表面の防汚膜によって汚れにくく撥水性も高める特許技術の“SARコーティング”を施している。もともとは光の反射を抑えることで風防の存在感を感じさせないほどの優れた視認性を与えるための技術だが、これが美しいダイヤルを際立たせるのにもひと役買っている。さらに⽇付け⾞と月齢⾞のあいだと上にそれぞれ押さえ板を設け、さらに⽇付け回し車を4時位置側に配置する特許技術は、6時位置に日付とムーンフェイズの同軸表示を実現させるためのものだが、結果としてダイヤルスペースを確保することにつながり、機能的でありながら多彩なダイヤル表現を可能にした。どちらもこの新作から導入された技術ではないが、新生オリエントスターが掲げる“人の感動を呼び起こすものづくり”には欠かせないものである。

日本人は古来より季節の移ろいを風や自然、月や星などで感じる感性がある。そんな日本ならではの時間の流れを技術力で表現したM45 F7 メカニカルムーンフェイズは、極めて日本的な時計といえよう。

太古の人々は太陽や月、星を観察することで時間の概念を生み出し暦を作った。自然のなかで空を見上げることこそが、もっとも純粋に時間と向き合うことなのかもしれない。

オリエントスターの時計たちは、モデル名の由来やダイヤルの表現、そしてムーンフェイズのようなメカニズムのおかげで、日常的なシーンのなかでも美しい自然を感じることができる。そして時計を眺めるその時間さえも楽しめるような、そんなロマンティックな魅力を持っている。

暑かった夏がようやく終わり、夜風を感じながら散歩をする気持ちよい季節がやってくる。ビルの谷間から見える月に心を奪われ、夜空に瞬くすばるやオリオン座の変わらぬ美しさに心をいやす。そんなちょっとした瞬間を幸せな時間に変えることができる時計、それこそがオリエントスターが持つ最大の魅力なのである。

パテック フィリップ 初代Cal.89を発表したとき(1989年)、それは史上最も複雑な時計のひとつだった。

Cal.89に搭載された最も珍しいコンプリケーションのひとつは、イースター(復活祭)の日付を示すものであり、(私が知る限りでは)それ以降同じものは作られていない。その理由は、パテックがイースターの日付表示メカニズムの特許を持っているからだけではない。真のイースター日付複雑機構は、時計製造においておそらく最も困難な複雑機構であるという事実も関係しているのだ。それだけに、Cal.89にもかかわらずどう考えてもそれは不可能かもしれない。

パテック フィリップ Cal.89。ラトラパンテクロノグラフ、ムーンフェイズ、パーペチュアルカレンダー、そしてチャイムのコンプリケーション機能を搭載している。
Cal.89のイースター日付機構は、1983年にパテック フィリップが特許を申請したものである。この特許には、イースターの日付メカニズムの発明者として、ジャン=ピエール・ミュジ、フランソワ・ドヴォー、フレデリック・ゼシガーが名を連ねている。ジャン=ピエール・ミュジは40年近くパテック フィリップに在籍し、長年にわたり同社のテクニカルディレクターを務めた。イースターの日付を表示する機構は、1989年から2017年までの正しい日付を表示するよう設計された。今、Cal.89の4本の時計がすべて修理を必要としている理由は、Cal.89が正しい日付を“認識”している仕組みに関係している。

イースターは、キリスト教暦の“移動祝日(年により日付が変わる宗教上の祝日)”のひとつ。毎年違う日が祝日になるのだ。イースターの基本的なルールは、春の最初に訪れる満月(春分の日のあとの最初の満月)のあとの最初の日曜日だ。そして天文現象により、イースターの日付は毎年変わる(暦の不規則性と同様、ただひとつの日付を選ぶというさまざまな提案が何世紀にもわたってされているが、今のところどれも定着していない)。このため、イースターは3月22日から4月25日のあいだのどこかとなる。

Cal.89のイースター日付機構は、ノッチ付きプログラム歯車のおかげでイースターの正しい日付を認識してくれる。基本的に、プログラム歯車は1年ごとに1ステップずつ進み、各ステップの深さは異なる。その深さに応じて、イースターの日付を示す針がその年の正しい日付にジャンプするのだ。

パテック フィリップ Cal.89のイースター日付機構。オリジナル特許より。

そのメカニズムは結構シンプルだ。上の特許図面からは、3時位置のすぐ右側にプログラム歯車と、実際の針を動かすクエスチョンマーク型のラックが見える。そこに針そのもの(15番)と、正しい日付にジャンプした針を固定するための渦巻バネが示されている(ラックはレバー27によって持ち上げられ、レバー27は28で回転する。同じレバーは、歯車40を介してプログラム歯車を記録する。ラックの足がプログラム歯車のステップ10のいずれかに乗っており、26のバネによって固定されているのがわかるだろう)。

この独創的に設計されたメカニズムの唯一の問題は、プログラム歯車のステップ数が限られていることだ。プログラム歯車を見ると、古典的なパーペチュアルカレンダーの中心にあるものを思い出すかもしれないが、うるう年のサイクルは4年に1回(100年と400年で補正があるが、これも予測可能な周期だ)確実に繰り返される。一方、イースターの日付はもっと長い年月の間隔で可能な日付の完璧な順序を繰り返すため、プログラムディスクへ完全に変換することはできないのだ。

Cal.89のイースターの日付は、天空星座図の上のセクターに(レトログラードで)表示されている。

イースターの日付を計算するのは、昔はそれほど複雑ではなかった。ユリウス暦による規則がかなり単純だったからだ。満月の日の完全な周期は、235の太陽月からなる19年周期に従うと考えられていた(ヴァシュロンの超ハイコンプリウォッチ、57260の取材記事で覚えているかもしれないが、いわゆるメトン周期だ)。そしてユリウス暦の完全な周期は76年であった(4回のメトン周期のあと、19×4=76年で、完璧にうるう年周期も完了する)。イースターの日付は、ユリウス暦では536年ごとに繰り返される。イアン・スチュワートが2001年のサイエンティフィックアメリカン誌の記事で指摘しているように、数学的原理は“532年は76年(ユリウス暦の周期)と7年(1週の日の周期)の最小公倍数である”。しかし周知のように、ユリウス暦は太陽の周りを回る地球の実際の時間と、暦の日数を適切に補正することができず、次第に季節と大きくずれていった。

そこにローマ教皇グレゴリウス13世が現れた。彼は新しい暦(現在のグレゴリオ暦)を制定し、ユリウス暦のずれを修正するために、1582年10月4日(木)の翌日を、10月5日(金)ではなく、10月15日(金)とする一度限りの更新を命じた(家主側が1週間半分の家賃を奪おうとしていると見て、多くの農家がこれに反発したという)。

教皇グレゴリウス13世の胸像。1559年、アレッサンドロ・メンガティ作。Photo: Wikimedia Commons

新しい暦では、イースターの日付を計算する新しい手順が導入された。各年にはエパクト(Epact)と呼ばれる番号が割り当てられ、これは1月1日の月齢を表していた(各番号は1から29のいずれか)。また毎年1月の第1日曜日には、対応する文字が与えられた(A~G)。これらの“主日文字”(うるう年は2になる)とその年のエパクト、そしてゴールデンナンバー(メトン周期の位置)は、イースターの日付を計算するために使用される材料となる。ただこれらは基本的なものにすぎず、教会論の月と彼岸を天文学的なものに適切に合わせるためには、実際の計算がはるかに複雑になる定期的な調整が必要となる(物事がいかに早く複雑になるかを知るには、エパクトのサイクルに関するこちらの記事をご覧いただきたい。きっと信じられないほど細かい部分への関心が高まるだろう)。
いくつかのポイントがある。まず、計算で考慮される天文現象は抽象的なものである。教会論は3月21日を春分の日と決めているが、実際の天文学上の春分の日は年によって異なる。第2に、天文学的な満月と教会論の満月は必ずしも一致しない。グレゴリウス13世が暦を改革して以来、そしてそれ以前から、イースターの正しい日付を吐き出すアルゴリズムを作ることは、数学者にとって気晴らしになっていた。19世紀最大の数学者と呼ばれるカール・フリードリヒ・ガウスは、1800年にこのようなアルゴリズムを考案し、ドナルド・クヌース(彼はジョン・コンウェイが発見した無限大よりも、はるかに大きな数の集合を発見したことを表す“超現実数”という言葉を作ったことで有名)は『The Art Of Computer Programming』のなかで、 “中世ヨーロッパにおける算術の唯一の重要な応用は、イースターの日付の計算であったことを示す多くの証拠がある”と書いている。

Astronomical dial of the Caliber 89, with indication of sunrise and sunset, the Equation of Time, star chart, position of the Sun along the Plane of the Ecliptic, and the date of Easter.
Cal.89の天空星座図には、日の出と日の入り、時間の方程式、星座早見盤、黄道面に沿った太陽の位置、そしてイースターの日付が表示される。

(教会暦で)イースターの日付を計算する方法をコンプトゥス(computus)と呼ぶ。プログラムディスクに頼るのではなく、真の機械コンプトゥスを作ることは可能なのだろうか? 答えは“一応できる”だ。最初の本格的な機械コンプトゥスは、ガウスがアルゴリズムを考え出してまもなく作られたようで、現在はフランスのアルザス地方にあるストラスブール大聖堂の天文時計という、多くの時計愛好家が知っている場所に設置されている。実際には1354年頃から3つの連続した天文時計があったのだが、最新のものは1843年に完成した。ジャン=バティスト・シュヴィルゲによって設計されたこのコンプトゥスは、おそらく史上初の本物の機械コンプトゥスを備えている。機械コンプトゥスはこれだけではないが、ほかのコンプトゥスに関する英語の文献を見つけることはできなかった(ストラスブール大聖堂のコンプトゥスに関する本の書評の転載版には、ほかにも少なくともふたつの“似たような”機構があると書かれている)。

確かに、動作原理という点ではこの種の時計は唯一無二のものだ。私はそれがどのように機能するかを積極的に研究しようとしているが、控えめに言っても困難な状況だ。コンプトゥスを使わなくとも、時計自体は時計製造において名作だ。1999年、サイエンス誌に掲載されたブライアン・ヘイズの記事によると、時計の天文列には2500年に1回転する歯車があり、さらにこの時計には、2万5000年に1度だけ春分歳差運動を示す軸を中心に1回転する天球儀が搭載されているという(同記事は2000年問題への対応と、ストラスブール大聖堂の時計がいかにして2000年問題への対応を果たしているかについてのものだった)。

The astronomical clock in Notre-Dame-de-Strasbourg Cathedral
ノートルダム=ド=ストラスブール大聖堂の天文時計。Photo: Wikimedia Commons

時計に興味のある人(そして知性を追求したい人)には幸いなことに、このコンプトゥス機構を見ることができる。それは時計の台座の左下にあるケースに展示されている。歯車の集合体のなかには、今年のエパクトと、現在の主日文字の表示があるのがおわかりいただけるだろうか。黄金比、またはゴールデンナンバーは、計算にも必要なメトン周期におけるその年の位置に対応する数字であり(図が示すように、1から19まで)、これも計算に必要である。

Strasbourg clock computus mechanism
ストラスブール大聖堂の時計コンプトゥス。Photo: Wikimedia Commons

年に1度、大晦日になるとこの仕組みが動き出す。歯車が回転し、メインカレンダーのコンプトゥスの横のリング上にある、金属製のタブの位置が変わり(語るも不思議な)、その年の正しいイースターの日付の横に収まる。

シュヴィルゲはコンプトゥスの模型も作っていたが、それは1945年に盗まれ、それ以来行方不明になっている。しかし、かつて時計の管理を担当していた会社に雇われていた時計師のフレデリック・クリンガマー(1908-2006)が、1970年代にコンプトゥスの動作モデルを構築。ストラスブール大聖堂のコンプトゥスが実際にどのように機能しているのかについて、現代的な情報の基礎となっているのはこのモデルである。

この時点で、パテックのためにイースターの日付の複雑さを設計した3人がお互いの顔を見て、“よし、みんな見て…プログラム歯車で行こう”と言った理由が理解できる。シュヴィルゲの設計に基づいて現代の加工技術を使えば、大型の腕時計や懐中時計にセットできる機械コンプトゥスを作ることは可能かもしれないが、私の予想では、LIGAやシリコン加工のようなものを駆使しても、それは無理だろうと思う(誰かが挑戦してくれるとうれしいが)。Cal.89の場合、28年使用できるプログラムディスクは妥当な妥協案のように思えるが、それをさらに28年のディスクに交換するには、おそらく単純ではない修理が必要になる。イースターの日付を計算する現在のルールを使用すると、イースターの日付の完全なサイクルは570万年に1度しか繰り返されないため、プログラムディスクは必然的に必要となる。