世界有数の規模を誇る名門時計ブランド・ロンジン。そのラインナップは、各価格帯における大衆向けモデルだけではありません。むしろ、ここ最近のロンジンの真骨頂は、「手動巻き飛返計時」といった、マニア垂涎の「ニッチかつハードコア」なモデルを、比較的手が届く価格で提供している点にあります。
約8万円で味わえる「飛返計時」とは?
今回ご紹介するのは、「先行者シリーズ(Spirit)」に登場した飛返計時「手動巻きモデル」です。
ステンレススチールケース、サイズは39.5mm。価格はレザーストラップモデルが38,900元(約80万円)、ステンレススチールブレスレットモデルが40,600元(約83万円)です。
ご存知の通り、ロンジンは2020年に航空機器と復刻時計への敬意から生まれた「先行者シリーズ」を発表して以来、同ブランドの看板モデル・高級ラインとして確立してきました。
その中でも、最もハイエンドな存在がこの「飛返計時」モデルです。そのハードコアさはどこまでかというと、一般的に「飛返機能(フライングバック)」は、ロレックスやオメガの通常のクロノグラフには備わっておらず、宝珀やオーデマピゲといった上位ブランドのモデルにこそ見られる、いわば「高級装備」です。
そんな高級装備を、ロンジンは約8万円という驚異的な価格で提供しているのです。これこそが、まさに「ハードコア」たる所以です。
「手動巻きモデル」がマニア受けする理由
2023年に発表された先行者飛返計時「自動巻きモデル」が、大衆的な使い勝手を追求したモデルだとすれば、今年(2025年)に登場したこの「手動巻きモデル」は、真の時計愛好家(マニア)に向けて作られた一台です。
まず何よりの変更点は、サイズダウンです。
39.5mm × 厚さ13.4mmというサイズは、クロノグラフとしては非常にコンパクトかつ薄型。対照的に、2023年の自動巻きモデルは42mm × 17mmの厚みがありました。見た目は似ていても、そのフィット感は全く別物です。
デザインのこだわり:より一層の「復刻感」へ
見た目の違いも見逃せません。
新デザインのセラミックベゼル:
以前のモデルにはあった「小さな四角形の目盛り」が廃され、ベゼルには45、30、15という「逆数(カウントダウン)」の数字が配されています。もちろん、セラミック素材で夜光処理も施されています。
文字盤の変更:
先行者シリーズのシンボルである「五星マーク(五つ星)」は省かれ、代わりに「天文台公式認定(CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED)」の文字が。また、ケースサイズが小さくなったことで、3時と9時のサブダイヤルが文字盤外周のアラビア数字(2、4、8、10)の一部を覆うように配置されています。
箱型サファイアガラス:
文字盤全体はゴールドトーンで統一され、それに相応しく箱型(エクスクーバー)のサファイアクリスタルガラスが採用されています。これにより、昔の時計のような、独特の復刻感あふれる佇まいが実現しました。
こだわりの「手動巻きムーブメント」
裏返して見ると、そのコンパクトさの秘密が明らかになります。
L792.4 手動巻きムーブメントを搭載。これは、自動巻きモデルに搭載されていたL791から自動巻き機構(ローター)を取り払い、厚みを大幅に削減したモデルです。
ムーブメントの見どころ:上層のブリッジにはジネーブストライプ(波模様)が施され、青色のカラムホイール(柱状輪)や青焼きネジが顔をのぞかせています。
高級機構:アンチショック機構には「双T避震器」を採用。振り子(テンプ)は無卡度(デトネーター)式で、シリコン製遊丝を備え、高い耐磁性能を維持しています。
ちなみに、この手動巻きモデルには「時計表示盤」が省かれています(30分計とスモールセコンドのみ)。これは、飛行士が航続時間を計測する際、30分もあれば十分だったという当時の航空事情を再現しているためです。
総括:ハードコアな1選
公価約8万円という価格帯で、この「手動巻き+飛返計時」という組み合わせを提供するブランドは他にありません。
ステンレススチールブレスレットモデルは、新設計の微調整機構付きフォールディングクラスプ(折り畳み式バックル)を採用しており、着け心地も非常に洗練されています。
ロンジンは近年、この「先行者シリーズ」を通じて、金無垢モデルや包金モデルなど、高価値モデルの投入を増やしています。そんな中で、この手動巻き飛返計時モデルは、機能主義と復刻美学が見事に融合した、「本気の遊び心」を持った一台だと言えるでしょう。