ゼニス G.F.J.、ブランド創業者に捧げるヴィンテージクロノメトリックの復活

ブランドの歴史に詳しいなら、文字盤上の3文字とシンプルなモデル名の意味はすぐに理解できるだろう。ジョルジュ・ファーブル=ジャコ(Georges Favre-Jacot)を知らなければ少々首をかしげるかもしれないが、それでもまったく問題はない。要するにこの名前はゼニスの歴史、すなわちエル・プリメロ誕生以前の時代に深く根ざした姿勢を示しているのである。

A Zenith GFJ
2022年、ゼニスはカリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏と協力し、復元されたヴィンテージのCal.135-Oを搭載した10本限定の時計を製作した。当時のこれらに搭載されたムーブメントは、1950年代初頭にニューシャテル天文台コンクールに実際に出品された個体である。多くのコレクターは、このきわめて生産数の少ない限定モデルを、ここ数十年で最良のタイムオンリーゼニスと見なしている。38mmのプラチナケース、コンブレマイン製のギヨシェダイヤル、そしてヴティライネンによる手仕上げのムーブメントを備えたこのリリースは大きな成功を収め、ゼニスのクロノメーターヘリテージを時計界に強く印象づけた。

今回発表されたG.F.J.において、ゼニスは2022年の限定コラボレーションをさらに発展させた。このストーリーは完成した時計そのものと同様に、ムーブメントにも深く関わる内容である。

An old Zenith ad
1945年、ゼニスの技術部長であったチャールズ・ジーグラー(Charles Ziegler)は、エフレム・ジョバン(Ephrem Jobin)という時計師に、天文台コンクールの頂点を目指せるクロノメータームーブメントの開発を命じた。ジョバンは、独自の輪列配置を採用した13リーニュのCal.135を設計した。オフセンターに配置されたミニッツホイールによって、大型のバイメタル切りテンプ、“ギョームテンプ”(ブレゲひげゼンマイ付き)と大径の香箱が搭載可能となり、等時性と精度が向上した。最終的に、この“プレミアム”仕様であるCal.135-Oは天文台クロノメーターコンクールにおいて230以上の部門別最優秀賞を獲得。時計史上、最も多くの受賞歴を誇るムーブメントとなった。

“ノーマル”バージョンであるCal.135は、1948年から1962年にかけて約1万1000個が製造された。基本的には、Cal.135-Oと同一のムーブメントである。天文台コンクール用にはゼニスの精鋭時計師であるシャルル・フレック(Charles Fleck)やルネ・ギガックス(René Gygax)らが、Cal.135のなかから優秀な個体を厳選し、調整・レギュレーションを施すことでCal.135-Oへと仕立て上げたのである。

A Zenith GFJ movement
The Zenith GFJ buckle
The Zenith GFJ dial macro
2025年に登場する新作G.F.J.において、ゼニスは1962年以来初めてこの伝説的キャリバーを製造することとなった。新Cal.135は、オリジナルの設計とサイズ(直径13リーニュ、厚さ5mm)を忠実に踏襲しつつ、ごくわずかに再設計が施されている。1万8000振動/時(2.5Hz)で駆動する手巻きムーブメントは、オリジナルの約40時間に対して約72時間のパワーリザーブを実現。トップセコンド機構を備えつつCOSC認定を取得しているが、実際にはCOSC基準を大きく上回り、日差±2秒以内の高精度を誇る。ムーブメントの受けには、ル・ロックルにあるゼニス本社の赤と白のレンガ造りのファサードをモチーフとした、特徴的な“ブリック”ギヨシェスタイルで飾られている。

G.F.J.は直径39.15mm、厚さ10.5mm、ラグからラグまでが45.75mmのプラチナケースに収められており、程よいサイズ感を備えた現代的な時計である。サイズこそ現代的だが、段差のついたベゼルやラグにはヴィンテージから着想を得たディテールが随所に見られる。

A Zenith GFJ dial macro
文字盤中央にはゴールドのパイライト(黄鉄鉱)を自然にちりばめた、深いブルーのラピスラズリが配されている。アウターリングにはムーブメントと同様、“ブリック”ギヨシェ模様が施され、6時位置に配された大型のスモールセコンドはマザー・オブ・パール製で、豊かな質感とコントラストを生み出している。面取りされたホワイトゴールド製のアワーマーカーと、40個のホワイトゴールド製ビーズによるミニッツトラックはすべて手作業で植字され、スリムなWG製の針が全体のデザインを引き締めている。

G.F.J.は160本限定で、価格は695万2000円(税込)。ゼニスブティックおよび正規販売店限定で、現在予約注文を受け付けている。

我々の考え
ヴィンテージ愛好家であり、Cal.135のファンとしてはどうしてもこのムーブメントにばかり目がいってしまう。何十年も前のムーブメントを復活させることは決して容易なことではない。多くの場合、当時の製造用工具は失われ、キャリバーに精通した時計師たちもすでに現役ではない。ブランドはこうした状況のなかゼロから開発を始めなければならず、そのR&D(研究開発)コストは莫大なものとなる。そうした事情を理解したうえで、ゼニスが最も歴史的に重要なタイムオンリーキャリバーを正統な形で蘇らせたことに、心から敬意を表したい。

A Zenith GFJ
時計自体の仕上がりも素晴らしい。明らかにG.F.J.は、内部に搭載されたムーブメントに最大限の注目を集めるためにつくられたプレミアムな製品である。もしゼニスが、よりシンプルで手ごろな価格のステンレススティール製でこの“新しい”キャリバーを発表していたなら、ほかのWatches & Wondersモデルに埋もれてしまったかもしれない。そうした仮想的なバージョンのほうが、より幅広い時計愛好家にとって商業的には魅力的だった可能性はある。しかし、今回ゼニスが選んだアプローチには大きな意味があると感じる。

G.F.J.は、いわば“ハローモデル”である。最終的に購入することになる160人のコレクターは、間違いなく大いに満足するだろう。そして残るゼニス愛好家やゼニスに興味を持つ者たちは、次の機会を待つことになる。ブランドが60年以上の時を経てムーブメントを復活させるのは、160本を製作して終わるためではない。Cal.135を搭載した新たなモデルが今後登場する可能性は高い。もし、ゼニスの現代Cal.135の第1弾かつ最も強いインパクトを放つバージョンを手に入れたいなら、このモデルこそがまさにそれだ。G.F.J.は細部まで緻密につくり込まれており、ダイヤルも実に美しい。Watches & Wonders 2025における、最も注目すべきヴィンテージインスパイアの新作のひとつとなるに違いない。